中公文庫『喪黒福次郎の仕事』発売

koikesan2006-05-23

 本日、中公文庫コミック版のレーベルから、藤子不二雄A先生の『喪黒福次郎の仕事』が発売された。『喪黒福次郎の仕事』は、文藝春秋の雑誌「カピタン」で1997年7月号から1998年6月号まで連載された。雑誌の創刊とともに始まり、休刊とともに終わった作品である。



 喪黒福次郎は、昨年2月のフジテレビ「トリビアの泉」で〝「笑ゥせぇるすまん」の主人公「喪黒福造」には人助けしかしない弟がいる〟として紹介されたことがある。単行本化されていながらいまいち有名ではなかった喪黒福次郎が、最も脚光を浴びた瞬間であった。
トリビアの泉」での紹介のとおり、福次郎は、他人を悲惨な状況へおとしいれる兄・福造と違って、出会った人を窮地から救う仕事をしており、この兄弟は、陰と陽、影と光のような対照的な関係にある。
 善良な福次郎が主人公なので、『喪黒福次郎の仕事』という作品自体も、『笑ゥせぇるすまん』のような毒の強さやひねくれた展開はほとんどない。『笑ゥせぇるすまん』が、毒と皮肉にみちたオチにカタルシスと衝撃を感じる作品とすれば、『喪黒福次郎の仕事』は、福次郎の善意を素直に感受することで癒しを得る作品といえるかもしれない。



 兄弟の仕事ぶりは、そのように真逆の結末をもたらすものだが、両者ともその仕事によって金銭的な報酬を得ているのでない点は同様だ。兄は悪魔的なボランティアで、弟は善意のボランティアなのである。それも、客の依頼を受けて仕事をするというより、自分で勝手に赤の他人を客と見定め、その客の運命を左右しようと働きかけるのだから、悪意であれ善意であれ、そのお節介な性格は、さすが血のつながった兄弟だと思わせる。



 単行本としては、2000年に文藝春秋から全1巻(ビンゴ・コミックス)が、その後2003年になって嶋中書店からコンビニ廉価版(アイランド・コミックスPrimo)が刊行されている。今回は中央公論新社からの発売なので、単行本が出るたびに出版社が移っていることになる。