翼竜展

 名古屋市科学館で明日まで開催中の「世界最大の翼竜展 〜恐竜時代の空の支配者〜」を見てきました。

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「恐竜展」ではなく「翼竜展」というところにこだわりを感じます。これまで恐竜をテーマにした展覧会は数多く開催されてきたでしょうが、翼竜をメインにした本格的な展覧会というのは珍しいのではないでしょうか。


 翼竜というと、まず頭に思い浮かぶのがプテラノドンです。幼い頃むさぼり読んだ各種恐竜図鑑に必ずプテラノドンの図版が載っていて、あの奇妙なトンガリ頭に独特の魅力を感じていましたし、なんといっても大長編ドラえもんのび太の恐竜』のプテラノドン登場場面のインパクトが絶大でした。見開きいっぱいに描かれた峡谷をプテラノドンの大群がのび太たちに向かって飛んでくる場面の大迫力! 藤子F先生はこの場面が映画でどう描かれるかとても気にされていて、多忙のため自分では行けなかった映画『のび太の恐竜』(1980年)の試写を観てきたアシスタントの方に、「プテラノドンの場面はどうだった?」と真っ先に尋ねてきたのだそうです。
 2006年に公開されたリメイク映画『のび太の恐竜2006』では、このプテラノドンの場面で替わりにケツァルコアトルスが登場し、目まぐるしくスピーディーな映像が展開されました。藤子F先生が『のび太の恐竜』を描いた当時、ケツァルコアトルスは日本での知名度が低かったと思うのですが、その後研究が進んで「史上最大の翼竜」だとか「最後まで生き残った翼竜」だということが知れわたり、プテラノドンをしのぐスター翼竜の座を獲得していったのでしょう。
 ケツァルコアトルスという名前は、古代メキシコ(アステカ)神話の神様ケツァルコアトルが由来です。この神様は、私の大好きな嗜好品チョコレートと深く関係しています。怠惰のため神の怒りを買ってエデンの園から追放された人間たちをかわいそうに思ったメキシコの神々が、大気の神ケツァルコアトルを人間界につかわします。そのケツァルコアトルが人間に授けてくれた物の一つに、チョコレートの原料であるカカオの種があったのです。アステカの人々は、カカオを「神様の食べ物」として珍重しました。時が流れて16世紀、アステカ帝国を征服したスペインのフェルナンド・コルテスがカカオをヨーロッパに伝え、チョコレートが世界中に広まっていくことになります。神話のなかでエデンの園を追われ、現実の歴史でスペインに征服されたアステカの人々の受難とともにチョコレートの歴史はあったわけで、それを思うと複雑な気持ちになりますが、やはりチョコレートのおいしさはどうしたって私にイノセンスな喜びを与えてくれるのです。
 チョコレートといえば昨日「明治アポロチョコレート」を久々に食べました。そして先日「森永チョコボール」の銀のエンゼルが5枚集まりました。
 
 どちらも私が幼い頃からあるチョコ製品ですが、チョコボールは昭和42年、アポロチョコレートは昭和44年の生まれなので、43年生まれの私と同世代なんですね(笑) 昭和44年といえばアポロ11号が月面着陸した年で、アポロチョコレートはその出来事に因んで発売された商品です。「アポロ11号の月面着陸は実はヤラセだった」という疑惑もよく聞きますが、アポロチョコレートがおいしいのは紛れもない真実です。



 さて、「世界最大の翼竜展」の話に戻りましょう(笑)
 三畳紀からジュラ紀白亜紀にかけては恐竜が地上の支配者として君臨していましたが、その時代の空の支配者が翼竜でした。翼竜は、2億2千万年前、まだ地球に大陸が一つしかなかった時代に姿を現し、6550万年前の生物大量絶滅のさい、恐竜や首長竜、アンモナイトらとともに姿を消します。その後の時代には、地上では哺乳類、空では鳥類が繁栄することになります。
翼竜展」の最初のコーナーでは、どの時代にどんな翼竜がいたかを、翼竜の化石や骨格標本を展示しながら解説していました。
 化石や骨格標本はこの展覧会の中心的な展示物で、どのコーナーでもふんだんにディスプレイされていました。実物もあれば複製もあって、素人目にはどちらも見分けがつかないほどなんですが、やはり「実物」という表示があるものを見ると、「本物なんだ」とありがたみを感じ、太古へのロマンを駆り立てられます。世界初公開、日本初公開の化石もありました。
 てんとう虫コミックスドラえもん』第31巻所収の「恐竜さん日本へどうぞ」に登場したズンガリプテルスの骨格標本や化石もありました。ズンガリプテルスという翼竜の存在は「恐竜さん日本へどうぞ」を読んで初めて知ったのでした。


 天井から吊り下げられたケツァルコアトルスの生体復元模型は圧巻! ゾウやキリンよりも巨大な生物が空を飛んでいたんだということを視覚的に実感でき、驚異を感じました。地球が誕生してから現在まで空を飛んだ生物のなかでこのケツァルコアトルスが最大だそうです。
 ムササビやコウモリや鳥など他の空飛ぶ脊椎動物との比較コーナーも興味深かったです。翼竜の翼って、細長い腕に薄っぺらい飛膜がくっついてるイメージなんですが、腕の長さの約半分くらいは異常に伸びた薬指なんだそうです。腕と薬指が同じくらいの長さだなんて不思議な感じですね。
 翼竜の餌になっていたトンボ類・魚類・カエル類の化石や、日本で発掘された何種類かの翼竜の化石、翼竜の離陸や着地や歩行の仕方の解説など見どころがいっぱいでした。翼竜は、地面を歩くさい四足歩行だったそうです。


 翼竜絶滅のコーナーに展示された「K/T境界」の地層標本にも興味を惹かれました。「K/T境界」とは、恐竜や翼竜が絶滅した白亜紀の終わり(中生代の終わり)と、その後の時代となる新生代との境目のことです。この年代の地層には本来地球表面上に少ないはずのイリジウムが多く含有されていて、その事実が「恐竜や翼竜の絶滅の原因は隕石の衝突だった」という説を有力にしているのです。「メキシコのユカタン半島沖に落下した隕石が白亜紀末期の大量絶滅が引き起こした」という説が最も有力とのこと。大長編ドラえもんのび太と竜の騎士』も、恐竜絶滅の原因を天体の衝突に求めていましたね。
 そういえば藤子・F・不二雄先生は、てんとう虫コミックスアニメ版『のび太と竜の騎士』下巻(1990年発行)でこんなことを語っていました。

大絶滅の原因については、じつにさまざまの学説が出されています。ぼくは、その中から、いちばん新しく、これこそ決定打と思えた「天体衝突説」をもとにアイディアを組み立てました。隕石や彗星と地球との衝突が原因で…という説です。イリジウムという地球の表層にはほとんど存在しない元素が、中生代新生代の地層にはさまって(サンドイッチのハムみたいに…)発見されたのが証拠というわけです。

 藤子F先生が『のび太と竜の騎士』を執筆した1986年当時、天体衝突説は最も新しい学説で、F先生は「これこそ決定打」と感じたわけですが、2008年の現在になっても、それを覆す新学説が現れることなく、最有力の説として通用しているのです。


翼竜展」最後のコーナーでは、翼竜絶滅後に空の支配者となった鳥類の現存種の剥製が展示されていました。それまで翼竜に感情移入しながら展覧会を見てきただけに、その展覧会の締めくくりの光景が鳥類の剥製ばかりというのはちょっと物悲しさを感じました。現在の飛行する鳥類で最も巨大なワタリアホウドリの剥製は見ごたえがありましたが(笑)
 展覧会を見終えたところで翼竜展ショップが待ちかまえていました。私は、同展の図録、ケツァルコアトルスのストラップ、プテラノドンの絵葉書を購入。

 書籍の販売スペースには、てんとう虫コミックスアニメ版『のび太の恐竜』『のび太と竜の騎士』『のび太の恐竜2006』が並んでいました。恐竜の登場する創作物として映画『ドラえもん』をしっかり押さえているところはポイントが高いです(笑)