谷川史子『くらしのいずみ』と藤子F『エスパー魔美』

 ずっと少女マンガを描いてきた谷川史子さんが、初めて青年誌のレーベルから出した『くらしのいずみ』(ヤングキングコミックス)を再読しました。

くらしのいずみ』が発売されたのは1年ほど前のことですが、私がこのマンガを読もうと思ったきっかけは、雑誌「ダ・ヴィンチ」2008年6月号での谷川さんのインタビューでした。



「谷川さんの作品はほのぼの、じんわり、美しい心がストレートに描かれていく」との評価を受けた谷川さんは、
「ちょっと口はばったいのですが、私の“善良”な部分を使って描いているのかもしれません」と答えています。
 そして、
「「読後感を良いものにしたい」というのが、私のテーマになっていて。ちょっとでもいいから、いい気持ちになってくれたら、すごくうれしい。思春期のころに、藤子・F・不二雄先生の『エスパー魔美』で魔美ちゃんが超能力で幸せにしてあげた人を見ながら「幸せな人を見るのって大好き。ウキウキしておどりだしたくなっちゃう」とくるくるっと廻る、というシーンを見まして。「なんて心のきれいな子なんだ!」と非常に心をうたれた。誰かのうれしい気持ち、きれいな気持ちを見ると自分もすごくすてきな気持ちになるものなんだ、と感じたことがずっと心に残っていて。私もそういうものを描きたいと思っているのかも」
と谷川さんは語っています。



 やはり、藤子ファンとしては、どうしても『エスパー魔美』というワードに目が行きます。他人の幸せな様子を見て自分も幸せな気持ちになっている魔美の姿が、谷川さんの描くあたたかくてやさしい世界の原風景になっているようですね。




くらしのいずみ』は、“夫婦”をテーマにした連作オムニバス集。
 結婚後に初めて知った妻の行動に不審を抱く夫だとか、書類上だけの仮面夫婦だとか、実家へ帰ってしまった妻だとか、それぞれの話で何らかの問題が夫婦の間に起こるのですが、最後にはあたたかくて爽やかな結末が待っていて、胸にほんのりとぬくもりを残すことができきます。
 人の善意や愛情や優しさを、押しつけがましくなく、さりげなく、かわいらしい空気のなかで描くところに、谷川さんの真骨頂があるのだと感じます。4話目に収録された「矢野家」は、初めて読んだときも泣けたけれど、今回再読してもっと泣けました。


 ほんわかとあたたかい気持ちになりたいときにお薦めのマンガです。夫婦とか恋人に限らず、人を好きでいられることの心地よさを感じられます。