藤子・F・不二雄大全集第3期第12回配本

 藤子・F・不二雄大全集第3期第12回配本の2冊が今月24日ごろ発売されました。


●『すすめロボケット』第3巻
 
 『すすめロボケット』はこれが最終巻です。
 小学館漫画賞受賞作であり、F全集みたいに厚い本で3巻分もの分量のある『すすめロボケット』がこれまで長らく単行本未収録だった…というのは少し不思議な事実でしたが、ともあれ、めでたく完全収録を達成して喜ばしい限りです。


「ロボケット+ブタ=?」の回に出てくる“デンデンウシ”に思わず目を奪われました。顔は牛なのに体がカタツムリという合成動物です。これ見ると、『ジャングル黒べえ』や『のび太の宇宙開拓史』に登場した“デンデンワニ”を思い出さずにはいられません。(デンデンワニは、顔がワニなのに体がカタツムリの動物)
 あと、のび太がデンデンハウスから顔を出した姿も思い出します(笑)
 この話のラストで描かれる多種類の動物のかたまりは、絵柄がかわいらしいのでユーモラスに見えますが、なかなかシュールですさまじい状態です。


「赤ちゃんだらけ」で、若返りのガスを浴びて人間ばかりかロボケットまで赤ちゃん化するところが可笑しいです。「水どろぼうはだれ?」ではビールを飲んで酔っ払うし、「世界一大きなダイヤ」では珍しい果物を食べて腹痛を起こすし……ロボケットはロケットとロボットが一体化したマシンなのに血の通った人間味があふれています。その性質は、ロボットなのに風邪をひいたり蚊に刺されたりするドラえもんにも通ずるものですね。



●『初期SF作品』 
 
 F先生が上京する前後から1959年までのあいだに描かれたSF作品をまとめています。
 冒頭に収録された『海底人間メバル』は、単行本初収録ではありますが、『まんが道』でほぼ全部を読むことができたので、初期作品にしては比較的多くの人に馴染みのある作品でしょう。F先生は壮大な構想をもって連載をスタートさせたと思うのですが、原稿を間に合わすことができなかったことの懲罰的なかたちで連載を3回で打ち切られてしまいました。
 この作品を『まんが道』のバージョンと比較してみると、『まんが道』ではラストが大幅に描き足されていることがわかります。その描き足された部分が最終話という扱いになっています。


『幽霊ロケット』『白魔洞の怪人』『宇宙冒険児』『恐怖のウラン島』など別冊付録のかたちで発表された作品が多く収録されているのも本巻の特徴です。これらの作品は別冊付録という性質上、読切にしてはページ数が多く、なかなかの読みごたえを感じさせるSF冒険ものとなっています。
『恐怖のウラン島』には椎名くんや豊島探偵が登場しますが、これはトキワ荘の住所「豊島区椎名町」から採ったネーミングですね。椎名くんが書く手紙「各へやの代表は今夜、十四号室にあつまってください。」の「十四号室」は、トキワ荘における藤子先生の部屋番号です。つまり、この作品ではご自分がお住まいのトキワ荘ネタを散りばめている…ということですね。


 漫画王増刊「幼年王」1956年春増刊号で発表された『トピちゃん』は、外見が人間の子どもそっくりのロボット・トピちゃんが、人間の子どもと仲良くなる話です。「非人間キャラが普通の人間の子どもと仲良くなる」というこの状態は、『オバケのQ太郎』『ドラえもん』『チンプイ』などなど、のちの藤子Fマンガの王道パターンの源流を見る気がします。
 トピちゃんは、人間社会の常識を理解しておらず、常識からズレた言動を見せます。異分子キャラが人間(地球人)社会の常識を解さないためズレた言動を取ってしまい、それがおかしみを生み出す、というところは、『オバケのQ太郎』や『ウメ星デンカ』などの原点と言えるかもしれません。


漫画少年」1954年9月号で発表された『ぼくは…うしろにつけた』が何だかとても好きです。4ページの小品ですが、絵柄もアイデアも洒落ていてユーモアがあって素敵なのです。後頭部に目のついた少年が後ろ向きのまま背を反らすように先生にお辞儀する場面は、『ドラえもん』の「手足七本 目が三つ」でのび太が後ろ向きのまま先生にお辞儀する場面とそっくりです。


『暴風の奇術』については以前ブログで詳しく感想を書いたことがあります。
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20041222


 今回収録された作品の多くが、初出誌や初出別冊付録を入手しようと思うとン万円もかかるものです。それがこうして手軽に読めるようになるなんて、少し前のことを考えたら神がかり的に恵まれた状況です。完全網羅を目指す全集のありがたみを噛みしめています。


 来月でいよいよ第3期完結です。
 第4期が待ち受けているとはいえ、第3期の最終配本で藤子両先生のデビュー作『天使の玉ちゃん』が史上初めて単行本化され、藤子不二雄A先生が解説を書かれるということで、ここが一つの大きな区切り、という感が強いです。
 4期の詳細発表も非常に楽しみですね。



●情報
・マニアックな藤子フィギュアを出してきたメディコム・トイですが、今度は土管のフィギュアを発売することに! なにか他の商品の付属品やセットとしてではなく、土管を単独でフィギュア扱いにするところに遊び心とこだわりを感じます。藤子Fワールドにおいて土管は、単なる背景にとどまらない意味を持っている、という解釈ですかね(笑)

 2012年12月発売予定
ウルトラディテールフィギュア No.173
UDF「藤子・F・不二雄作品」シリーズ4
土管
参考小売価格¥980(税込)
 全高約60mm
 http://www.medicomtoy.co.jp/list/6944.html


・8月28日(火)から9月10日(月)までローソンにて藤子・F・不二雄ミュージアム一周年記念キャンペーン開催中。
 http://www.lawson.co.jp/campaign/static/fjk/
 対象のお菓子2個で特製Fミュージアムクリアファイル1枚がもらえます。クリアファイルは全5種。