「プロフェッショナル 仕事の流儀」感想

 21日(月)に放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK総合)のテーマは「The Legend 僕は、のび太そのものだった 漫画家 藤子・F・不二雄」でした。 
 http://www.nhk.or.jp/professional/schedule/index.html#20131021

 こうした硬派のドキュメンタリー番組でF先生が特集される、というだけで大歓喜でしたが、放送前から漏れ伝わってくる諸々の情報に触れるたびに期待値が上がっていき、放送がますます待ち遠しくなりました。待ち遠しいのだけれど、その待ち遠しい時間がもう少し長くてなってもいい、と思えるくらい、放送日を待っている時間も心地よかったです。
 同番組で故人がテーマになるのはこれが初めて、というのも私の心を駆り立ててくれました。番組初の記念すべき試みにF先生を選んでくれたことに感謝です。



 当日夜10時、ついに放送が始まります!
 そうして観終えた最初の感想は…、
「私はF先生の出てくる映像や、F先生とA先生が揃った状態に涙腺を刺激されやすいなあ…」
 というものです(笑)
 F先生の動く姿を観たり、F先生の語りを聞いたりしているだけで目がうるんできたし、関係者の方々がF先生のことを語っている場面でもジーンとしました。学校に居場所のなかった子ども時代のF先生が、1人の転校生と友達になった…というくだりは、最も泣けました。2人の藤子先生の出会いは、あまりにもお馴染みのエピソードなのに、番組を観ているなかで一番泣けたのです。



 F先生のご家族、担当編集者、アシスタント経験者、同級生など、生前のF先生を知る人物がたくさん出てきて、それぞれの立場からF先生について語ってくださったのが、この番組の大きな収穫でした。
 備忘のため、インタビュー出演者のお名前を羅列しておきます。(敬称略、肩書きは番組で表示されたもの)

藤本正子(妻)
土屋匡美(長女)
安孫子素雄藤子不二雄A
たかや健二(漫画家・元アシスタント)
徳山雅記ドラえもんルーム編集長)
森山弘(ひろ寿司大将)
佐々木宏(クリエイティブ・ディレクター)
加藤日出夫(小学校の同級生)
鈴木伸一杉並アニメーションミュージアム館長)
山崎貴(映画監督)
高柳義也((ウメ星デンカ時代の)少年サンデー編集長)
小西湧之助ビッグコミック創刊者)
えびはら武司(漫画家・元アシスタント)

 そんな錚々たる関係者の皆さんの言葉と、F先生ご自身が残した言葉を軸にしながら、ドラマ仕立てのパートも交えて、F先生像を“プロの仕事人”という切り口から浮かび上がらせており、私にとって既知の話題であっても少し別の味わいで楽しめました。


 F先生の生前を知る人物のひとりとしてA先生が登場してくださって、単純に感激しました。A先生がインタビューを受けた場所は、藤子スタジオの応接室!
 そこでA先生は“どこでもドアは、子どものころ読んだジョン・バッカンの童話『魔法のつえ』のイメージを憶えていて、それを使ったものだ”と生前のF先生が語っていた事実を披露されました。昔読んだ作品を自分のなかで整理し蓄えていたF先生に感心する、とおっしゃっていました。
 先日の当ブログで紹介したとおり、『魔法のつえ』は復刊されたばかりですから、じつにタイムリーな話題とも言えます。番組放送中〜放送後にAmazonの『魔法のつえ』の在庫がみるみる減っていったそうです。



 この番組では、F先生の人柄を“シャイ”“自分のペース・信念を持っている”といった切り口から掬い上げていました。そうした先生の人柄を、先生の仕事ぶりと絡めてクローズアップしていた、という印象です。
 F先生が立ち寄った新宿駅近くの喫茶店や、行きつけだった近所の寿司屋が紹介されて、「いつか行ってみたい!」と思いました。その寿司屋でF先生が好んで食べていた寿司ネタも映し出されたので、同じネタを真似して食べてみたくなりました(笑)
 F先生が『ドラえもん』創作秘話を綴ったマンガ『ドラえもん誕生』が実写化されたかのようなパートがあって、胸が躍りました。



 悪い意味でちょっと気になったのは、「さようなら、ドラえもん」(初出時のタイトル:「みらいの世界へ帰る」のまき)のくだりです。
 番組での紹介の仕方だと、“「さようなら、ドラえもん」が「小学三年生」1974年3月号で発表されて、そこで『ドラえもん』の雑誌連載が一旦終わり、その半年後に刊行された単行本が凄まじい売れ行きだったため連載が再開した……”というふうに受け取る視聴者が多数出てしまいそうでした。事実関係から言えば、その受け取り方は誤りです。
 実際は、「さようなら、ドラえもん」発表の翌号以降も『ドラえもん』の連載は途切れることなく続いているのです。というか、雑誌発表時の「さようなら、ドラえもん」の最終ページ欄外に「小学四年生・4月号につづきます」と明記されていて、「さようなら、ドラえもん」が発表された時点で、すでに『ドラえもん』の連載が続いていくことは読者に告知済みだったわけです。
 にもかかわらず、今回の番組では「さようなら、ドラえもん」で連載が一時中断したかのような誤解を与えかねない表現がなされていて、その点が気になったのでした。
 F先生が「さようなら、ドラえもん」を“連載の終わり”のつもりで構想した(執筆した)という説には信憑性があるため、どういう経緯で「さようなら、ドラえもん」が雑誌発表時に“連載の終わりではない”ことになったのか、そのあたりは不明確です。



 ともあれ、この番組、観ているあいだじゅう胸がジーンとして、ところどころで目がうるんできて、心揺さぶられるものでした。前述のとおり、私はF先生の出てくる映像や、F先生とA先生が揃った状態に涙腺を刺激されやすいのです。そのことをあらためて実感した50分間でした。