相撲と藤子Fマンガ

 ただいま大相撲九州場所が開催中です。
 今場所は、白鵬の通算1000勝、豪栄道の綱とり、高安の大関とりがかかっていて、見どころが多いです。全15日間のうち本日で6日目が終わり、白鵬はすでに3日目に通算1000勝を達成しました。豪栄道はきのうまで全勝だったのですが今日負けてしまって5勝1敗。優勝か優勝に準ずる成績じゃないと場所後の横綱昇進は難しいので、もう終盤まで1敗もせずに行きたいところです。高安は現時点で3勝3敗と苦しい星勘定。大関昇進の目安として、今場所は12勝(3敗)以上の成績が必要なので、すでに3敗してしまっていてはかなり厳しいです。むろんまだ可能性は残されているので奮闘してほしいです。


 などと語りたくなるくらいには私は大相撲が好きでして、通常はテレビ観戦で楽しんでいますが、今年の夏は、大相撲名古屋場所十三日目を愛知県体育館で生観戦できました。
 
 
 
 
 


 相撲といえば、藤子Fマンガのなかの相撲ネタで印象深いものがあります。『ドラえもん』の「ゆめふうりん」(てんとう虫コミックス2巻収録)です。
 
 大人になったらガキ大将になりたいと堂々宣言するのび太…。将来の夢がそんなふうですから、それを聞いたパパはまともに意識を保っていられないほど落胆し、ドラえもんもまた呆れ顔です。
 そこで、眠っている子どもたちに対してなら、たとえ今ののび太でもガキ大将になれるだろうとドラえもんが出してくれたのが“ゆめふうりん”なるひみつ道具です。ゆめふうりんを使って、何人もの友達を空き地に集めます。友達はみんな眠ったまま起きてきた状態です。意識が睡眠状態ですから、のび太の言うことに従ってくれるはずです。
 そうしてのび太は、友達一人ひとりと順番に相撲をとるわけですが、まず眠ったままのジャイアンに負け、スネ夫にも負け、あげくのはてにしずちゃんにも負けてしまい、さらに他の友達との取組で自ら転んで自爆する始末。それを見たドラえもんは、「のび太くんに負けるのは、たいへんむずかしいことなんだなあ」とこぼします。その呆れと悟りと諦めが入り混じったリアクションが絶妙のおもしろさを醸し出しています。


 「ゆめふうりん」の物語は、「ぼくはだんぜんがき大しょうになる!!」とのび太が将来の夢を宣言するところから始まって、大人になったのび太が子ども社会のガキ大将になっている想像図、「あちまれェ」と不慣れな号令をかけるのび太の上気した表情、のび太に負けるのはとても難しいことだとあらためて思い知らされるドラえもんの場面まで、個人的におもしろポイントが満載で大好きです♪


 『ドラえもん』の「ロボットペーパー」(てんコミ11巻)では、のび太たちいつものメンバーが紙相撲をやっています。各人の紙力士のしこ名は、のび太→ノビタ川、しずちゃん→シズノ花、ジャイアン→ジャイデン、スネ夫→スネオ山です。
 「のび太は紙ずもうでも弱い」とバカにされたのび太は、帰宅するなり「ドラえもん、紙」と紙相撲用の紙を要求します。ところがドラえもんは、のび太のほうを振り向かないまま無表情で「あいよ」とトイレットペーパーを渡します。受け取ったのび太はトイレの前までいったん歩いてから再び部屋へ戻って「トイレの紙じゃないよっ。もっとあつくてじょうぶな紙」とドラえもんに怒ります。この流れ、お笑いで言うところの“ノリツッコミ”のようです(笑)
 ドラえもんが無表情で何かするシーンはF先生らしいクールな笑いが感じられることが多く、この「あいよ」も例外ではありません。ノリが良いようにも、ぞんざいな態度にも受け取れて、それが妙におかしいのです。
 『ドラえもん』の「友情カプセル」(てんコミ4巻)の最後のコマで力士に思い切り強く抱きしめられるスネ夫の泣き顔も印象的です(笑)


 『オバケのQ太郎』(F先生とⒶ先生の共著)の「クークークー」(藤子・F・不二雄大全集3巻収録)では、言葉だけのささやかな相撲ネタが見られます。ハトになりきったQちゃんが他人の家で「クークー」と鳴きまねをしたら、その家の人は「食う食う」と食べ物をおねだりされていると勘違いして、Qちゃんにごはんを食べさせてやります。うまそうにごはんを食べるQちゃんを見ながら家の人は、「きみは空飛ぶおすもうさんか」とツッコみます。このセリフ、もとは「きみは空飛ぶこじきか?」でした。もとのセリフのほうがツッコミとして的確だし笑いの効果も高いと思うのですが、この語は現在の人権意識などを鑑みて自主規制の対象になることが多く、藤子作品でもことごとく別の言い方に修正されています。
 『オバケのQ太郎』の「新弟子「三毛山」」(F全集9巻)では、Qちゃんが相撲部屋(イタチ山部屋)へ強引に弟子入りしようとします。弟子入りするには目方も背も足りないと言われたQちゃんが、目方を増やし背を伸ばすために取った方法が単純な即物性に満ちていて笑えます。とにかく腹いっぱいに食べて目方を増やし、戸と柱で体を挟んでその圧力で背を伸ばしたのです(挟んだ分、体の横幅は細くなりました)。三本の毛で髷を結った姿もほほえましい!


 相撲部屋への弟子入りといえば、『エスパー魔美』の「まいもどった赤太郎の巻」も思い出します。“学園暗黒地帯の帝王”といわれた悪漢・黒田赤太郎は、学校を卒業しても仕事が長続きせず、在校生を恐喝したりして悪事を続けていました。そんな赤太郎が相撲部屋(年波親方の部屋)に弟子入りすることで自分の居場所と目標を得て更生するのです。「けいこがたのしくてしようがないんだ」と語る赤太郎の表情は、それ以前の極悪だった彼の顔つきを知っているだけに、憑き物が落ちたようにすがすがしく感じられます。



 ※11月17日(木)、「ビッグコミック」12月増刊号が発売されました。藤子不二雄Ⓐ先生と西原理恵子先生の連載コラボエッセイ『人生ことわざ面白“漫”辞典』は、第48回「自慢たらたら」です。聞かされる側の気持ちを思えば自慢などすべきではないが、ついつい自慢をしてしまっている…という話題です。