てんとう虫コミックス新装版『エスパー魔美』4巻発売

 4月28日(金)、てんとう虫コミックス新装版『エスパー魔美』4巻が発売されました。
 
 
 一話一話を簡単にレビューしてみます。


 ●「電話魔は誰?」
 悪質ないたずら電話の犯人は誰なのか?というミステリー要素と、映画『幸福の黄色いハンカチ』からヒントを得た人間ドラマが織り重なって話が収束します。その見事な重なり具合に唸らされるばかりです。
 魔美が人を救うときの最たる超能力は、テレポーテーションやテレキネシスといった超越的な物理力以上に、人の心のどこかに隠れたしこりを取り除ける彼女の優しい感性なのだなあ、としみじみ感じられる一編です。その能力は、テレパシーに近いのかもしれませんが、ここで私が言う優しい感性とは、エスパーである前の一人の生身の人間としての魔美が備えた心の働きのことです。
 魔美のパパの車が走行するときの擬音が「ポンコツ ポンコツ ポンコツ」なのが微笑ましくて好きです。車が新品からほど遠い状態であることを走行音で直接的に表してしまうなんて相当な荒ワザですが、それを荒ワザではなく洒脱な軽みに感じさせてくれるのが藤子Fタッチの空気感です。


 ●「エスパークリスマス」
 魔美のパパはパイプ愛用者です。この話でパパは“もしサンタが来てくれるなら欲しいものは何か”と聞かれて「メシャムのパイプ」と答えます。パパと藤子F先生のイメージは随所で重なるところがあるですが、そんなパイプへ愛着度合もまたF先生のイメージと重なります。
 私はこの話を読んで「メシャムのパイプ」という言葉を初めて知りました。10代のころです。その時分は、メシャムってブランドとかメーカーの名前だと思っていたので、石の種類だと知ったときはちょっと驚きました(笑)
 他の動物に間違われるとひどく自尊心を傷つけられる誇り高きコンポコが、2人きりでクリスマスをすごす兄妹のためにパンダになりきります。パンダメイクをほどこしたコンポコが兄妹の前に差し出されたときの、コンポコの苦虫をかみつぶしたような表情が、彼の複雑な心境を物語っています。でもちゃんとパンダの仕事をやってくれたわけで、そんなコンポコに「グッジョブ!」と声をかけたくなりました。


 ●「ずっこけお正月」
 お隣の陰木さんが、すっかり陰気じゃなくなって登場するのが新鮮です。
 サイダーと間違えて日本酒を飲んでしまった魔美。酔っ払って元旦からズッコケまくるのですが、そのズッコケのひとつひとつが本人の気づかぬところでとても人の役に立っていた、というお話。こんなかたちでも人に善いことをしてしまえるところも、魔美の天賦の才かもしれません(笑)
 ジャイアンスネ夫がチョイ役で登場していますね。ナレーションの多い話でもあります。


 ●「雪の中の少女」
 スキー場でタヌキと間違われてしまったコンポコ…。タヌキに間違われたおかげでスキー場から追い出されずに済んだのですが、コンポコはそう言われたことを後々まで引きずってしまうくらい自尊心が強いのです。
 なのに、そのあと遭難者を救助に行くと「あれっ、タヌキがこんなところに……」「いや、キツネだろ」と言われてしまい、コンポコはショックのあまり涙と鼻水を噴出。これから助けようという遭難者にそんなことを言われてしまったわけですが、それでも懸命にがんばるコンポコのけなげさに心を揺さぶられました。
 魔美はセルフ・テレキネシスを使って天才的なスキーを披露します。そのため新聞記者の目にとまり取材されてしまいます。ところがパパとママは、魔美が天才的なスキーをしたなんてこれっぽっちも信じません。そそっかしい新聞記者が人違いで魔美のところへ取材に来たのだと笑うばかり。それを見た魔美は、「ひょっとしてほんとにマミが……なんて、一瞬でも思ってくれてもよさそうなもんだわ」と自尊心が傷つけられました。
 というわけで、この話ではコンポコが自尊心を立て続けに傷つけられるばかりか、魔美もちょっと自尊心を傷つけられるのでした。


 ●「ヤミに光る目」
 この話は「電話魔は誰?」と同様、犯人捜しモノという一面を持ちます。「電話魔は誰?」というタイトルになぞらえるならば「放火魔は誰?」といった内容です。
 夕食を作ると言いだした魔美にあわててストップをかけ、「くれぐれもかるはずみな行動はとらんように」と釘を刺したパパ。料理を作ることが「軽はずみな行動」とは(笑)魔美の料理を一度でも口にしたことのある人物に共通する意見でしょうね。
 放火魔を恨めしく思ったときの魔美の表情・セリフ・擬態語が魔太郎のストレートなパロディになっています。F作品にⒶ作品が越境して入りこんでいるそのネタに私は“二人で一人の藤子不二雄”を感じ、藤子不二雄時代からのファンとしてテンションが上がります。魔美と魔太郎は、名前に「魔」が付くキャラですから、いっそうつながりを感じてしまいます。


 ●「雪の降る街を
 魔美のパパとママの馴れ初めを描いた話です。魔美が奇跡を起こさなければパパとママが付き合うことはなかった…、つまり魔美がいなければ魔美は生まれなかった…というタイムパラドックス的なアイデアが使われています。すこしふしぎなロマッチック・エピソードです♪


 ●「大予言者あらわる」
 冒頭、高畑さんが体を洗っている風呂場に魔美が飛び込んできます。あわてふためく高畑さん。しずちゃんの入浴中にのび太がいきなり風呂場へ入ってくる状況と共通していますが、魔美は高畑さんの裸が目の前にあることをぜんぜん意識してなくて、そこがスケベ心たっぷりのび太との大きな違いです(笑)
 大寺主さんの“日本一趣味のわるい屋敷”は、なかなかのインパクト!
 大予言者・銀河王のトリックを暴く高畑さんを見て、彼の名探偵的素質にあらためて感嘆。高畑さんなら本当に名探偵になれますね♪ 大事件・大災害を予知した人がいた!なんてトピックを聞くと、高畑さんが述べたセリフがよく頭をかすめます。
「予知能力なんてのはね、いろんな超能力のなかでも、とくにあいまいなんだ。ニセ者も多い。」
「世界中には何万人もの予言者がいて、しょっちゅういろんな予言してるわけよ。だから、ときには偶然当たったってふしぎはないんだ。」
「一流の予言者といわれる人だって、けっこう当たったりはずれたりしてる。ところが、当たった場合には注目されるけど、はずれた予言なんてみんなすぐ忘れちゃうからね。」
 私は高畑さんからいろいろと学んだ気がしますが、こうした合理的に物事を見る精神も彼からの影響が強そうです。


 ●「高畑くんの災難」
 高畑さんは、テストでいつも百点が採れるのにわざと何問か間違えているのですが、今回のテスト期間中には風邪をひいて頭がぼんやりしてついうっかり全問正解してしまいます。それが語られるくだりを読んだ私は、高畑さんの頭脳と性格に果てしなき憧憬をおぼえたことがあります。高畑さんの、嫌がらせをされてもそれを嫌がらせと感じない性格にもやはり憧れます。
雪の降る街を」と「高畑くんの災難」では、魔美の通常の超能力を超えた奇跡が起こるのが圧巻です。