藤子不二雄A先生、最新コミック・エッセイ

 現在発売中の月刊「潮」(潮出版社)8月号に、藤子不二雄A先生の最新描きおろしコミック・エッセイ『日本とぼくが生まれ変わった日』が掲載されている。特別企画「戦後60年曲がり角に立つ日本」のうちの一記事で、藤子A先生が自らの戦争体験をご自身が開発したコミック・エッセイの形式で語っている。全8ページ。


 それにしても、こうした『パーマンの日々』*1形式の藤子Aコミック・エッセイが新たに発表されたのはいつ以来だろうか。少なくとも21世紀に入ってからは初めてではないか。
 どうあれ久しぶりのコミック・エッセイ、しかもこの形式にしては長い8ページというボリュームで、藤子Aコミック・エッセイを愛する者としては幸せ気分いっぱいだ。
 藤子A先生のコミック・エッセイは、前例から言っても、単行本に収録されない可能性が高いので、雑誌で買って保存しておかねばならない。



『日本とぼくが生まれ変わった日』は、前述のように、藤子A先生が自らの戦争体験を語った作品で、曹洞宗のお寺「光禅寺」での誕生から、国民学校時代、父の死による転校、藤本弘少年(藤子・F・不二雄)との運命的な出会い、疎開体験、終戦、そして現在と、その時代の要点となる出来事をとりあげている。


 藤子A先生の個人的な体験だけでなく、第二次世界大戦の勃発から終戦を迎えるまでの歴史的背景も簡潔に記している。東条英機内閣成立のくだりでは、東条英機の似顔絵を描き、ヒトラーの台頭や、蒋介石の国民党と毛沢東中国共産党紅軍のゲリラ戦に言及したコマでは、藤子A先生の過去作品『ひっとらぁ伯父サン』『劇画毛沢東伝』の図版を引用しており、藤子Aファンとしてはそれだけで胸が高鳴る。
※『ひっとらぁ伯父サン』『劇画毛沢東伝』については、当ブログでとりあげているのでご参照いただきたい。
●「劇画毛沢東伝を再読」
http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20040710
●「劇画毛沢東伝 賛否両論」
http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20040712
●「藤子不二雄マンガに見るヒトラー
http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20050511


 藤子A先生のコミック・エッセイは、コマの中の絵と言葉で事象を叙述する、いわゆるコミック(マンガ)の形式を基盤にしながら、写真、過去に描いた図版、コマ外の文章などを織り交ぜた多彩な技法で一作を成立させている。この『日本とぼくが生まれ変わった日』も、そうした特徴を完全に有しており、形式的な面では実に藤子Aコミック・エッセイらしい作品といえる。黒の太枠で囲ったコマや、ハイコントラストに加工した写真、手書き文字による自己ツッコミといった藤子A作品らしさも随所に見られる。
 ただし、通常の藤子Aコミック・エッセイの日常的な内容と比べ、本作はテーマが重く、黒い絵の印象の強さや、ページ数の多さなどが加わって、これまでのコミック・エッセイよりこってり感が増している。


 71歳の藤子不二雄A先生の、表現者としての今が、この作品にコンパクトにおさまっている、と感じた。


藤子不二雄A先生の今〟といえば、残念な知らせも飛び込んできた。

『サル』藤子不二雄A
ついに最終回!
息をのむ超絶ゴルフが炸裂!
皇帝と称される伝説の名ゴルファー、ゼウスの挑戦を受け、勝負することになったサル。ゼウスの驚異的なプレーに圧倒されながらも、何かをつかんでいくサル。そして…
http://bigcomic.jp/public/html/yokoku/

 というわけで、今月16日(土)発売の「ビッグコミック」8月増刊号で、『サル』が最終回を迎えるようだ。前回までの話を読む限りでは、まだ最終回を迎えるような段階ではなかったし、そもそも、『サル』連載初期にサルが参加すると言っていたシャドウトーナメントも描かれておらず、この時点で最終回というのは、唐突な印象を拭えない。どういう事情で終わるのか知らないが、まだまだ続くものだと思っていただけに寂しい気持ちだ。
 この『サル』が載っている「ビッグコミック」増刊号と、『愛…しりそめし頃に…』が連載中の「ビッグコミックオリジナル」増刊号が、どちらもほぼ隔月*2で違う月に発売されていたおかげで、藤子不二雄A先生の連載マンガを毎月読めるかたちになっていたのだが、『サル』の終了によってそれも崩れてしまう。
『サル』の終了が、藤子A先生の新たな仕事への布石であることを祈りたい。


 もうひとつ、藤子A先生の今の作品にまつわる話題。
4月15日の当ブログでとりあげた「復刊ドットコム奮戦記」左田野渉・著/築地書館/税込1785円)の表紙イラストが完成したらしい。「ブッキングの社員全員の集合風景を、一幅の絵に仕立て」たカラー作品ということだ。
 藤子A先生描きおろし表紙イラストはもちろん、本の内容も楽しみだ。
 http://blog.book-ing.co.jp/message/2005/07/post_2dd6.html

*1:パーマンの日々』:「ビッグコミック」1978年4月25日号〜1980年11月25日号連載/単行本未収録

*2:厳密に言えば、『愛…しりそめし頃に…』が載っている「ビッグコミックオリジナル」増刊号は隔月発売だが、『サル』が載っている「ビッグコミック」増刊号は年に5回の発売。