映画『のび太の恐竜2006』感想その3(ネタバレあり)

koikesan2006-03-15

 映画『のび太の恐竜2006』は、公開2週目(3月11日〜12日)の興行成績ランキングでも、1週目と同じ2位をキープした。
 http://movie.goo.ne.jp/ranking/boxoffice/index.html
 そして本日、「映画ドラえもんのび太の恐竜2006』公式ガイドブック」が発売。「もっと!ドラえもん」特別編集ということで、先日第5号で完結した「もっと!ドラえもん」の血脈がここにも連なっているようだ。渡辺歩監督が語る私的こだわりポイントや、渡辺監督・楠葉総監督・増子プロデューサーの座談会が読み応えがあった。カラー図版が多数なのも嬉しい。
 http://skygarden.shogakukan.co.jp/skygarden/owa/solrenew_detail?isbn=4091062911
 今夜9時からのフジテレビ「トリビアの泉」では、新企画「トリビアの影ナレ」がスタート。初回の影ナレとして、スネ夫肝付兼太)が副音声でナレーションを担当した。いつもの中江真司さんのナレーションに慣れきっているので、それをスネ夫の声で聞くと実に不思議な感覚だった。番組中では、スネ夫の姿がシルエットで示されただけで、「スネ夫」「肝付兼太」という説明やクレジットはなかった。


 そんなところで、3月5日の記事に続き、『のび太の恐竜2006』の感想(その3)を。



のび太の恐竜2006』では、船越英一郎神木隆之介劇団ひとりといった芸能人が、声優陣に名を連ねている。
 船越英一郎さんは、黒マスクの男を存在感たっぷりに演じた。黒マスクは、コミカルな愛嬌をふりまくことのない、ニヒルでイヤらしい悪人で、話の最終局面まで憎まれ役をまっとうした。船越さんの堂に入った演技とマスク越しに見えるリアルな表情、鼻につく気障なポーズなどの効果が相俟って、終始ヒールとしての輝きを放っていた。
 個人的に、黒マスクとその一味に対する憎らしさがぐっと高まるのは、峡谷で翼竜に襲われたのび太たちを救った黒マスク一味が、ピー助をよこせば現代まで送り届けてやると取引を持ちかけるくだりだ。のび太たちの弱みにつけこむ卑怯な取引をもちかけただけでも実に嫌な感じだが、その背後で一味のドラム缶から油らしき液体が川に垂れ流されたり、一味がたばこの吸殻を森に捨てたりしたことで、この一味の柄の悪さが真に迫ってきた。
 さらに、子どもが喜ぶであろう玩具を大量に与えることで、のび太たちの心理を揺さぶりにかかったことも憎らしさに拍車をかけた。玩具の入った箱を目の前に置かれたジャイアンスネ夫がごくっと生唾を飲み込む仕種が、黒マスクの策略に一瞬誘惑されそうになる子どもらしい心理を描き出していた。



 神木隆之介くんは、小さなピー助と大きくなったピー助の声を演じ分けた。小さなピー助の声は、高音でかわいらしい動物的な声だったが、大きくなってからは、人間の素の声を意識させてしまうレベルになった。
 とはいえ、テレビで神木ピー助の声を初めて耳にしたときの、「ピューイ」という言葉をただ棒読みするだけのような演技を思えば、本番では、なかなか気持ちの入った声で演じられていて、このレベルなら個人的には感情移入の妨げになることはなかった。
 小さなピー助と大きくなったピー助の演じ分けについては、神木くんのこんな発言がある。

最初に監督から「台本に〝ピー〟とか書いてあるけど、関係なく自分の思ったままにやってください」って言われたので、ピー助になりきって演じられました。小さい頃のピー助は、すごい裏声で高い声が出しやすかったんですけど、大きくなった時のピー助は、監督から「もうちょっと自分に近づけた声で」って言われて。自分の普段の声の一番高い声でやっていました。
(「TVぴあ」3月15日号)

 この発言を読む限りでは、ピー助の声が人間の素の声に近かったのは、神木くんの演技力とか意思とかの前に、監督の指示によるところが大きかったようだ。そして神木くんは、幼いピー助の動物的な裏声よりも、大きくなったピー助の声を出すほうに苦心したようだ。



 劇団ひとりは1人5役を演じたが、どれもささやかな役ばかりで、大きなインパクトは残せなかった。5役のなかで彼の演技を最も長く見せられたのは、崖の下に住むおじさんだ。だが、私はこのシーンで背景の描き込みに心を奪われて、劇団ひとりの演技にまでなかなか気が回らなかった。
 5役のなかで趣向としておもしろかったのは、リサイクル業者だろう。黒マスクとのび太が初めて対面するシーンで、のび太の家の外からリサイクル業者の声だけが聞こえてくるのだ。ここは黒マスクとのび太のやりとりに集中する場面なので、前もって言われてなければ、劇団ひとりがリサイクル業者を演じているなんて全然気づかない。本筋とは関係のないネタというわけだが、細かい遊びの多い『のび太の恐竜2006』らしい演出のひとつといえよう。
 崖の下のおじさんの家は、とにかく細緻に描き込まれていて、私が子どものころはこんな家だったなあ、と懐かしさを感じた。プロパンガスのボンベや、ひまわりの花や、ごつい自転車など、おじさんの家で見られる細部に魅了された。おじさんが麦茶をお盆に乗せて持ってきたのにも風情を感じた。

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http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20060305#p2