「昭和タイムカプセル」でトキワ荘特集

koikesan2007-12-25

 ぼんさんから教えていただいた『昭和タイムカプセル』(ネコ・パブリッシング)を購入。「いま楽しめるレトロ趣味」をテーマにしたムック本だ。昭和30年代の趣味やカルチャーを誌面に集めていて、読者は郷愁を誘われ童心をくすぐられながら、昭和30年代という過去を新鮮な感覚で楽しめる。昭和43年生まれの私にとって、昭和30年代の日本は完全に生まれる前の世界だが、私が幼少の頃も昭和30年代と地続きの風景が広がっていたので、リアルに懐かしさを感じられる。


 本書を買った最大の目的は「わが心のトキワ荘という特集である。


「わが心のトキワ荘」の感想
●「明日に向かって突き進んだ若者たちの青春」
 玩具コレクターの北原照久氏が所有するトキワ荘のカーテン(新漫画党メンバーのイラスト入り)は、昨年「横浜人形の家」で展示されたさい見に行ったので、そのときのことを思い出した。「トキワ荘関連年表」は、どの先生がいつ入居しいつ転出したのか一目瞭然で興味深い。


●「トキワ荘同窓会in松葉」
 トキワ荘特集内で個人的に最も心が奮い立った企画。『まんが道』や『愛…しりそめし頃に…』で有名な中華食堂「松葉」。満賀道雄才野茂が「松葉」のラーメンを食べて「ンマーイ!」と歓喜する場面では、強烈に食欲をそそられる。私は「松葉」が今でも営業を続けていることを知ったとき、いつか「松葉」へ行ってラーメンを食べ「ンマーイ!」と声を上げてみたいと希望を抱くようになった。「松葉」を初めて訪れたのは5年ほど前だったろうか。念願の「ンマーイ!」を体験できで感激した。その後、数回「松葉」を訪れている。
 その「松葉」でトキワ荘同窓会が開催されたのだから、もうそれだけで興奮である。藤子A先生が都合で参加できなかったのは残念だが、鈴木伸一先生、水野英子先生、よこたとくお先生、元講談社の名物編集者・丸山昭さんという顔ぶれが「松葉」に揃ってトキワ荘談義を繰り広げているのだから感慨深い。先生方が座っている席に私も座ったことがあるなあと思うだけでもちょっと嬉しくなったりする。
 4人の座談会の内容では、丸山さんが手塚先生のことを富士山に喩えているのが印象深かった。富士山(手塚先生)は登ってみるとしんどくて、二度とこんなところに来たくないと思わせるが、離れてみるとその壮麗さや偉大さが見えてくるという。手塚番編集者として手塚先生に大変なめにあわされつつ、手塚先生の偉大さを肌で感じてきた丸山さんの実感が強くこもった発言だ。
 ラーメン大好き小池さんのモデルである鈴木伸一先生がラーメンを食べて「ンマーイ!」と台詞を発している写真も楽しい。


●「もっとも建築物としてのトキワ荘に詳しい男 立体画家・芳賀一洋の領域」
 芳賀一洋氏が製作した15分の1トキワ荘ジオラマは、とにかく精巧で細密でリアリティたっぷりで驚かされる。このジオラマは、宮城県石巻市の「石ノ森萬画館」に展示されていて、私もそこで実物を見たことがあるが、写真で細部をクローズアップして見ると改めて感嘆する。




 トキワ荘特集のほかでは「『三丁目の夕日』の世界へ行こう!」という特集に注目した。大ヒット映画ALWAYS 続・三丁目の夕日』(山崎貴監督)がとりあげられている。
 私は先月の終わりにこの映画を劇場へ観に行った。第1作め同様、昭和30年代の風景が念入りにこだわりを持って再現されていて、映像を見る楽しさをストレートに味わえた。続編では、首都高速道路の高架が完成する前の日本橋をリアリティたっぷりに再現したところが売りだった模様。
 映画の冒頭では、1作めの余韻を一気に破壊するようなお遊びの映像が置かれて、呆気にとられつつ目を奪われた(笑) ラストはベタと言えばベタな終わり方だが、ベタだからこそ潔く素直にいっぱい泣けた。
 隣の席で観ていた女性2人組が、「ああいう洗濯機使ったことがあるわ〜!」「あんなことやったわね〜!」「懐かしいわ〜!」としきりに声を発して昭和30年代を懐かしがっていた。上映中の見知らぬ人たちの会話は、通常の場合、単なる雑音でしかないのだが、今回はそういう声も私の感動を増幅する力を持っていた。
ALWAYS 続・三丁目の夕日』は、理屈ぬきで泣いたり笑ったり懐かしがったりできて、サービス精神あふれる娯楽作だったと思う。



 映画『三丁目の夕日』の監督・山崎貴さんの監督デビュー作はジュブナイル』(2000年)である。『ジュブナイル』は、山崎監督が『ドラえもん』の最終回エピソードに触発され、そのエピソードを元にストーリーをこしらえた映画である。ただ、『ドラえもん』の最終回と言っても、藤子・F・不二雄先生が描いた公式のエピソードではない。1990年代終盤にチェーンメールや口コミで広がった非公式最終回「動かなくなってしまったドラえもんを、将来ロボット工学者になったのび太が自分の手で修理する。ドラえもんの開発者は実はのび太だったのだ」というストーリーをベースにしているのだ。
 この非公式最終回は、あるファンが自分で創作したエピソードをホームページで発表したら、それが評判を呼んで“本物の最終回”という尾ひれがついて広まってしまったものだ。山崎監督は、そうやって都市伝説的な噂と化した非公式最終回エピソードを友達から聞いて感動し、ついには監督デビュー作として映画化してしまったわけだ。
ジュブナイル』ではもちろん『ドラえもん』のキャラクターを使っているわけではないし、著作権的にはクリアしていて、エンディングのスタッフロールでは「For Fujko・F・Fujio」という文字が見られる。
 この非公式最終回エピソードを、『ドラえもん』のキャラクターをそのまま使って漫画化した同人誌が高い評判を得てよく売れた結果、いろいろと物議をかもしたのは記憶に新しいところだ。



※『昭和タイムカプセル』の編集をされたぼんさんのブログ記事
 http://www.hobidas.com/blog/modelcars/team/archives/2007/12/post_255.html