鈴木伸一先生の自画像は小池さん?!(各務原イベントレポその2)

各務原イベントレポその1からの続きです)http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20080831


 ラーメン大好き小池さんのモデル・鈴木伸一先生と私がパーティーで会話しているところを、いつのまにか撮ってくれていた人がいるので、その写真を公開します。鈴木先生の表情から、温厚な人柄がぽかぽか伝わってくると思います。写真右端の、手と顔が少し写り込んでいるのが私です^^

 

「かかみがはらアニメコンテスト」関係者交流会は盛り上がりのうちに終幕し、その後は篠田英男先生たちが居酒屋で二次会を開くというので、私は自宅へ帰るための終電が迫っていたにもかかわらず、勢いで二次会に参加しました。鈴木伸一先生や松谷社長はホテルへ戻られたようです。
 私は篠田先生の隣に座りました。二次会参加者は10名前後。篠田先生といえば、私たちの世代には「コロコロコミック」に長期間連載された『藤子不二雄のまんが入門』の塾頭として思い出深い人物です。てんとう虫コミックスドラえもんの発明教室』が出たことで篠田先生の名前を知った人もいるんじゃないでしょうか。(当時の名前は、しのだひでお、とひらがな表記でした)


 篠田先生は、昭和40年代に藤子スタジオに頻繁に出入りされていたことがあって、アシスタントでもないのに篠田先生専用の机が藤子スタジオに置かれていました。私は「篠田先生は藤子スタジオの鬼軍曹って呼ばれてたんですよねえ」という話から切り出して、当時のアシスタントの方々のエピソードをたっぷりうかがいました。Yさん、Hさん、Nさん、Kさん、Tさんなど、キャラの立った人から真面目タイプの人まで、いろいろな方がいらっしゃったんだなと感嘆。
 篠田先生は藤子A先生とトキワ荘時代からの親友なので、藤子A先生の面白エピソードもいくつか披露してくださいました。藤子A先生は品性と知性あるジェントルマンですが、その半面、仲間内ではユニークな行動をよくとられていて、篠田先生のお話はそのユニークな藤子A先生をクローズアップしたものでした。藤子A先生の人間味あふれる面白行動を、とても興味深く、いとおしく、大笑いしながら聞かせていただきました。篠田先生の話術があまりに巧みなので、私にとって神様のような藤子A先生のエピソードに対して大爆笑を繰り返してしまいました。こういう話を聞くと、ますます藤子A先生のことが好きになっちゃいます。どんなエピソードか具体的に書くと私の命が危ないのでやめておきますが(笑)


 篠田先生は、手塚治虫先生の最初の専属アシスタント4人衆のうちの1人です。4人衆のなかには、タイムボカンシリーズやいくつかの藤子アニメを手がけた笹川ひろしさんと、『ダメおやじ』でヒットを飛ばした古谷三敏さんがいます。篠田先生から見て、笹川さんは先輩、古谷さんは後輩にあたります。後年、古谷さんがいつのまにかフジオ・プロ(赤塚不二夫先生のプロダクション)に在籍していたときは驚いたそうです。
 二次会の終盤は、篠田先生とIさんが関西弁で夫婦漫才みたいなことを始めて、異様に高いテンションへと昇り詰めました。ナンセンスな世界に覆われて、二次会の場はまたたくまに演芸場と化したのでした(笑)


 二次会が終わってみれば、私が帰宅するための電車はとっくになくなっていて、「今晩は各務原に野宿することになりそうです」と話したら、篠田先生が「だったら、俺たちが泊まってるホテルに泊まればいい。今からでも部屋が空いてればチェックインできるだろ。もし空いてなかったら、俺の部屋に泊めてやるよ。そのかわり、俺のいびきがうるさいから我慢しろよ」と男気のあることをおっしゃってくださって、胸をうたれました。
 ホテルに行ってみると、部屋が空いていて無事宿泊できました。野宿せずに済んでよかったです(笑) それにしても、このホテルには篠田先生だけでなく鈴木伸一先生や松谷社長も泊まっておられるわけで、こんな凄い先生方と同じホテルに泊まれるなんて、考えてみると(考えるまでもなく)夢のような出来事です。先生方と一緒のホテルに泊まってるんだ!と思うだけで興奮してなかなか眠れませんでした。



 翌日(8月30日)は、「かかみがはらアニメコンテスト」本番です。篠田先生から、ホテルのロビーに午前10時集合と聞いていました。
 朝起きて、ホテルのレストランへ朝食バイキングを食べに行きました。朝食を食べているとレストランに篠田先生が入ってきて、私の前に座られました。篠田先生と二人で語らいながらの朝食は実にうまかったです。
 少し早めにロビーに行くと、手塚プロ松谷社長が椅子に腰かけて新聞を読んでおられました。鈴木先生はちょうど10時ごろに部屋から出てこられ、私の顔を見るとにっこりを笑顔を浮かべて、ホテルの部屋で描いた色紙をカバンから取り出し私に渡してくださいました。
 その色紙に描かれたイラストがこれです!

 鉛筆で下書きをしてサインペンで丁寧にペン入れをしてくださっています。色はホテルに画材がなかったため朝の時点ではついていなかったのですが、このあと向かったアニメコンテストの会場に色鉛筆が置いてあったので、それを使ってきれいに塗ってくださいました。服の柄の細かいところまできっちり塗ってくださって、鈴木先生の几帳面で優しいご性格があふれんばかりに伝わってきます。
 あくまでも鈴木先生の自画像として描いておられるので、藤子先生が描く小池さんと比べにこやかで温和そうですね^^
 鈴木先生、お忙しいなかお手間をとらせて申し訳ございませんでした。ほんとうにありがとうございます。この色紙は永遠の家宝といたします。


 鈴木先生たちをホテルからアニメコンテスト会場「各務原市産業文化センター」へお連れする迎えの車に、私も同乗させてもらえることになりました。鈴木先生、松谷社長、篠田先生の乗る車になぜ私がいるのか実に不思議な感じでしたが、その貴重な時間を緊張しつつ深く噛みしめました。
 松谷社長は、車に乗ったときでもネームや原稿を描いておられた手塚先生のエピソードを車中で臨場感たっぷりに披露してくださいました。「手塚先生はこんなに揺れている車のなかで原稿に着色していたこともあった。その出来栄えは、固定された場所で塗ったものとまったく変わらなかった」


 アニメコンテスト会場に到着すると、控室に入った鈴木先生たちと離れ、マンガ・アニメファン仲間のKさんFさんと落ち合いました。
 会場内では、コンテストの応募作品が繰り返し上映されていて、それを自由に観ることができました。会場の後方ではアニメ制作のワークショップが行なわれ、クレイアニメーターのはしもとまさむさん(テレビチャンピオン・クレイアニメ王座決定戦優勝者)と「K-ITシティー・コンソーシアム」の方々が精力的に指導されていました。はしもとまさむさんが制作した立体人形がたくさん展示されていて見ごたえ抜群でした。
 同コンテストのテーマとして「エコロジー」が掲げられ、エコテーマを寄せ書きする大きな紙が何枚か用意されていました。私は、鈴木先生や篠田先生が描かれたのと同じ紙に、「ずっときれいな空を飛びたいなあ」と小鳥がしゃべっているイラストを描きました。



 午後1時から、手塚プロ松谷社長の講演会「漫画とアニメと手塚治虫」が始まりました。
 絵の素人である松谷社長が「皿を落とした人」の絵を描き、そのあと壇上に上がった篠田先生が同じ状況を絵にして、素人とプロの違いを比較しました。松谷社長は「マンガは記号だ、と手塚治虫が言っていたように、マンガは誰にでも描けるのですが、素人とプロの間にはこれだけの差があるのです」と解説。篠田先生が描いた絵は、王子さまが皿を落として割ってしまっているもので、これは「若いおうじ皿われる」→「わかおうじさらわれる」→「若王子さらわれる」→「若王子さん、さらわれる」というネタにもなっています^^ 1986年、三井物産マニラ支店長だった若王子信行さんが誘拐された事件が元ネタです。
 アニメ『鉄腕アトム』のOP映像が3種類流されました。1963年版、1980年版、2003年版の3種類です。「『鉄腕アトム』がこうして何度も放映されるのは、手塚治虫のマンガが普遍的で重要なテーマを持っているからです。時代を超えた人類共通のテーマを描いているのです。私がいなくなった頃に、またアトムのアニメが始まるかもしれません」
 日本のアニメが「ジャパニメーション」ともてはやされている現状にも言及されました。「ジャパニメーションなどと言われていますが、現在のテレビアニメは最盛期の7割程度しか放映されていません。アニメはお金がかかるので、視聴率が取れなければそこまで予算が回せないのです」「子どもたちに良いアニメを見てもらたいと願っています。でも、残念なことに、ほのぼのとした良いアニメはなかなか視聴率がとれないのです。今は海外が日本のアニメをたくさん買ってくれています。しかし日本は海外のアニメをあまり買ってきません。海外には本当に良質なアニメがあるのに、これも視聴率の問題でなかなか日本で観ることができないのです」
 日本のマンガやアニメが世界と比して隆盛を誇っている理由を2〜3挙げていくなかで、やはり手塚先生の存在の大きさにも触れられました。「そして、やはり日本のマンガやアニメがこんなに盛んなのは、日本に手塚治虫がいたからです。自分が手塚治虫の会社の人間だから身内びいきで言っているわけじゃありません。マンガやアニメに関係する人、誰に聞いてもほとんど同じ思いでしょう」


 余談ですが、私はKさんとともに会場の端っこのほうで松谷社長の講演を聴いていました。松谷社長が、日本のマンガ文化を語るくだりで我々のほうを向いて「あそこにマンガオタクがいます」とおっしゃったときは、ちょっとびっくりしました。Kさんと私はマンガオタクの実例として講演で使われてしまったのでした(笑)


 松谷社長の講演会が終わると、アニメコンテストの優秀作発表と表彰式。私は、鈴木伸一先生が選んだ作品が特に好きでした。みんなで力を合わせて巨大なケーキを作るお話で、材料をせっせと運ぶ描写がかわいらしくて芸が細かくて気に入りました。



 各務原ですごした2日間は、頭のなかで思い返すたびに感動や興奮や驚きがわいてきて、このまま一生の思い出になりそうです。
 お会いした皆様、ほんとうにありがとうございました!