藤子・F・不二雄大全集に『ジャングル黒べえ』が!

藤子・F・不二雄大全集」第一期(2009年7月〜2010年6月)の刊行予定作品などを告知した画像がネット上でアップされています。どなたがどういう経緯でアップされたものかわかりませんが、内容を見る限り本物と判断してよさそうです。雑誌か何かの広告ページでしょうか…
 http://mbup.net/d/81497.jpg

第一期刊行ラインナップ
ドラえもん』1〜8巻(以後続刊と思われます)
オバケのQ太郎』1〜5巻(以後続刊と思われます)
パーマン』全8巻
キテレツ大百科』全2巻
エスパー魔美』全5巻
『バケルくん』全1巻
海の王子』全3巻
ジャングル黒べえ』全1巻


毎月25日ごろ発売
A5判・並製
各巻定価1155円〜1890円(税込)
各巻(約)300〜770ページ

 これが確定的な情報だとすれば、すでに発表されていた刊行予定作品に加え、なんとジャングル黒べえも第一期に刊行されることになります。これは大きなニュースです。この全集の本気度をあらためて強く感じました。
 全集の刊行が最初に告知されたとき、第一期刊行予定作品のなかに『オバケのQ太郎』『海の王子』が含まれていて、「これは相当本気の全集だな」と手ごたえを感じました。『オバケのQ太郎』と『海の王子』は、藤子・F・不二雄先生と藤子不二雄A先生の両者に著作権がまたがった作品で長らく封印状態にありました。私は、こうした合作作品が公式に陽の目を見るのはもっとずっと先のことだと悲観的な見方をしていたのですが、それがこの全集で刊行されるとわかって驚いたのです。
 とくに『オバケのQ太郎』は、封印作品の象徴・不遇の藤子マンガの代表格のように取りざたされ、フリーライター安藤健二さんのルポルタージュ本『封印作品の謎2』(2006年、太田出版)で取材の対象になったりもしました。


オバケのQ太郎』は、藤子作品のなかでは『ドラえもん』に次ぐメガヒット作であり、時代背景を鑑みれば『ドラえもん』以上の影響力でブームを巻き起こした最強の作品であるともいえましょう。そんな大メジャー作品が、昔のマンガの復刻が盛んな近年の状況のなかでずっと絶版状態だったのは、明らかに不自然で理不尽なことでした。その『オバケのQ太郎』が、いよいよ公の場に帰ってくるのですから、この全集はそのことだけも大きな価値を持っていると思うのです。
 そのうえ、『オバケのQ太郎』と並んで『封印作品の謎2』でとりあげられた『ジャングル黒べえ』までが第一期刊行作品に入ってきたのですから、この全集の本気さをますます確信することとなったのです。


黒人差別をなくす会」という団体から「黒人差別」「黒人蔑視」と抗議を受けた出版物や玩具やマークなどが次々と回収・絶版・販売中止になっていく事態が1988年から起こり始めました。その流れのなかで、『ジャングル黒べえ』の単行本や掲載本も回収され、そのまま絶版となってしまったのです。1989年夏のことでした。それまでよく再放送されていたアニメの『ジャングル黒べえ』も、以後テレビで見ることがなくなります。『ジャングル黒べえ』は、公式の場では完全に抹消された格好になってしまったのです。
 その後の出版社の黒人表現をめぐる対応など見ていると、『ジャングル黒べえ』が陽の目を見るなんてまだ何年も何十年も先のことだろうと思わずにはいられませんでした。それが今、「藤子・F・不二雄大全集」の第一期刊行作品として堂々名を連ねているのですから、なんと感慨深いことでしょうか。



オバケのQ太郎』『ジャングル黒べえ』という、藤子マンガにおける2大封印作品の刊行が決断されたというだけで「藤子・F・不二雄大全集」の本気度は十分に感じられるわけですが、ちょっと気になるのは、第一期の刊行作品が比較的メジャーな作品、ヒット作品、人口に膾炙した作品ばかりになっていることです。「大全集」と名乗るからには、『パジャママン』『4じげんぼうPポコ』『Uボー』『つくるくん』といったこれまで一度も単行本化されていない作品、『宙ポコ』『宙犬トッピ』『バウバウ大臣』『きゃぷてんボン』『ミラ・クル・1』『モッコロくん』など単行本化されたことはあるけれどマイナーな作品なども網羅的に刊行してもらいたいところです。
 さらに私の満足感を求めるなら、藤子F先生がデビューから昭和30年代に発表した、いわゆる“初期作品”もできるかぎり刊行してほしいのです。二人の藤子先生のデビュー作でありながらその全貌はいまだベールに包まれ続けている『天使の玉ちゃん』をはじめ、『バラとゆびわ』『幽霊ロケット』『竹光一刀流』『山びこ剣士』『雲の中のミカド』『白魔洞の怪人』『しょうねんリンカーン』『名犬クルーソー』『かげろう剣士』『恐怖のウラン島』『少年船長』『こうのとりになったおうさま』など別冊付録の形態で発表された作品、『ゆりかちゃん』『エミーと魔法のビン』『母の呼ぶ歌』『黄金のすずらん』『光公子』などの少女マンガ、『ロケットけんちゃん』『しゃぼんだまぽんちゃん』『かばんのぱっく』『ろぼっとろぼちゃん』『ロケットGメン』『とびだせミクロ』『すすめロボケット』『てぶくろてっちゃん』『名犬ラッシー』『かけろセントール』など小学館および講談社学年誌で連載された作品……そういった初期作品群も、このさいだからぜひ網羅的に刊行してほしいです。
 贅沢を言うなら、F先生はイラストやカット、ショートショート、コママンガ、漫景など細かい作品もたくさん描いているので、そうした作品もこの機会に拾い上げてもらえたら嬉しいです。
 また、『ドラえもん』『オバケのQ太郎』『パーマン』などのメジャー作品にも単行本未収録話が数多くあるので、それもカバーしてもらいたいところ。今回の広告を見る限りでは、『ドラえもん』の帯に「全作完全収録!!」とあるので、『ドラえもん』に関してはこれまで単行本未収録だった話もついにすべて収録されることになる気配です。
 あと、作品の初出情報の記載はもちろん、関連資料や関連情報なども巻末に載せてくれると、全集としての質が高まると思います。
 絵やセリフの表現は、どうしても無理が出てくる場合を除いて、初出あるいは最初の単行本の初版のものに準拠してもらいたいです。
 もちろん、この願望は、『ウメ星デンカ』『21エモン』『モジャ公』『ポコニャン』『チンプイ』『T・Pぼん』『未来の想い出』「SF短編」など、映像化されていたりファンの間でよく読まれていたりする作品が刊行されるのを大前提として書いています^^


 ああしてほしいこうしてほしいと思いつくままに書いてきましたが、要するに、このまたとない機会に、できるかぎり取りこぼしなく完全網羅を目指した全集を実現してほしいと切に願うのです。今回の全集の本気度を見るならば、私の願いもまんざら絵空事ではないような気がして、だからこそ、大いなる期待をここで表明させてもらっています。
 この機会を逃したら次に藤子F全集が刊行されるなんていつのことか知れたものじゃありません。もし実現しても、何十年も先のことになるでしょう。ですから、とにかくこの好機にできるかぎり完全性の高い全集を目指してもらって、そのあとにはぺンペン草も生えないくらいにしていただきたいのです。



 第一期の全巻予約特典は、F先生のアイデアメモやマンガ原稿の下書きを収録した「Fnote(エフノート)」とのこと。第一期全巻分の金額を一括で支払わねばならないようなら、かなりきついことになります。全巻予約したうえで、毎月発売された分だけその都度支払っていく方法にしてほしいなあ。



・追記
 コメント欄でとにいさんから情報を得て、さっそく「ビッグコミック」5月25日号を購入してきました。藤子・F・不二雄大全集の広告は、同誌の176ページにあります。

藤子・F・不二雄大全集」広告ページと「ビッグコミック」5月25日号表紙
 藤子Fキャラの多くは、日常のなかに闖入してきたストレンジャー(来訪者)であり、ストレンジャーでありながら家庭的・友達的な親近感を持った存在でもあります。その特徴を意識したうえでの「また、おじゃまします」という短いフレーズは、心温まる粋なキャッチコピーだと思います。