藤子・F・不二雄大全集第3期第8回配本

 25日(水)、藤子・F・不二雄大全集第3期第8回配本の3冊が発売されました。


●『ドラえもん』第18巻
 
「幼稚園」「よいこ」で発表された話に加え、1976年から77年に「てれびくん」別冊付録で発表された話を収録。
「幼稚園」「よいこ」の話はカラーが再現されているうえ一コマ一コマが大きくて、絵の魅力をぞんぶんに味わわせてくれます。そして、初期『ドラえもん』の大らかな作風に幼年版だからこその無邪気さが相乗して自由な世界が醸成されているのも楽しいです。


 本巻最大のトピックは、「分解ドライバー」(初出サブタイトル「分かいドライバー」)と「ターザンパンツで大活躍!?」(初出サブタイトル「ターザンパンツ」)がついに単行本に収録されたことでしょう。この2作品は、ネット上で話題になりながらも内容的に見て単行本収録は無理なのでは…と言われたこともあった問題作です。この2作品の魅力を世に知らしめたのは、何と言っても「変ドラ」でしょう。『ドラえもん』というマンガが孕むシュールでマッドでナンセンスな側面を鋭く魅惑的にレビューしてくれたこのサイトの功績は大きいです。
 http://hendora.com/index.htm
 
「分解ドライバー」や「ターザンパンツで大活躍!?」を今回あらためて読んでみて、そのでたらめなナンセンスぶりに笑いのツボを刺激されました。「分解ドライバー」で、のび太の左腕とお尻部分が合体してピョンピョン飛び跳ねる姿の、突き抜けたバカバカしさと言ったら(笑) 「ターザンパンツ…」のラスト6ページの鮮やかなまでのドタバタ展開も最高です。これらの話が無事単行本に収録され、簡単に読めるようになったことを大いに喜びたいです。


 巻末の解説は福井晴敏さん。子供向けコンテンツの現在と過去の時代背景を比較分析しながら『ドラえもん』のすごさを語る文章で、読みごたえがありました。



●『すすめロボケット』第1巻
 
『すすめロボケット』がついに単行本化されました!
 藤子Fマンガ史の中でも重要な作品の一つでありながら今まで一度も単行本にならなかったこの作品がようやく単行本化されたのですから、実にめでたいです。
 藤子Fマンガ史において本作がなぜ重要かと言えば、まず、F先生はこの『すすめロボケット』と『てぶくろてっちゃん』で第8回小学館漫画賞(1963年)を受賞している、ということが挙げられます。F先生は、この作品で初めて漫画賞を受賞したのです。
 そして『すすめロボケット』は、藤子不二雄を国民的漫画家へと押し上げた出世作オバケのQ太郎』につながっていく作品である、ということも重要です。F先生は、『オバケのQ太郎』の大ヒットによって「日常に闖入した非日常キャラクターが巻き起こすギャグマンガ」「生活をベースにしたSF(すこし・ふしぎ)」という王道パターンを確立しました。『パーマン』も『ウメ星デンカ』も『ドラえもん』も『チンプイ』もその路線上にある作品です。
 F先生がこの路線で行ける!と手応えを感じ始めたのは、『オバケのQ太郎』の前から描いていた『すすめロボケット』が好評だったからです。そのことについてF先生はこう述べています。

「ロボケット」という、ロボットとロケットを足して割ったようなキャラクターが出てくるまんがを、学習誌に描きましてね。それが純粋なSFまんがじゃなくて、生活を背景にしたSFギャグだったわけです。幸いに好評で。その頃から何となく、生活感をまんがに持ち込んでみようという発想がありましたね。生活の基盤はあくまで現実世界にあって、片足はもうひとつの、変わった世界に踏み込んでいるキャラクターですね。(『オレのまんが道小学館、1990年)

 そんな重要な藤子F作品『すすめロボケット』が、1965年に連載が終了してから初めて単行本に収録されたわけで、そのことを大いに慶賀したいです。 
 カラー原稿が再現されているのもたまりません。カラーで見開き!というページがいくつかあって、絵の魅力を堪能できます。


 解説は松本零士先生。同時代にデビューし活動した漫画家としてF先生に共感を寄せる文章で、素敵でした。この解説文の冒頭の「手塚治虫さんが第1世代だとすると…」というくだりは、松本先生の講演会で実際に聞いたことがあって、そのときから面白い世代分け方法だなと感じていました。



●『SF・異色短編』第3巻
 
漫画アクション」系の雑誌で発表された短編作品を集めた一冊です。表紙には『超兵器ガ壱號』のガリバがでかでかと載っていて、彼の巨大感がアピールされています。
 17編の作品が収録されており、パラレルワールドファウスト、創造主、タイムトラベル、人生やり直し、古生物、異種族との価値観のズレ、超能力、不思議な道具、クローンなど、他の藤子Fマンガ(あるいは他作家のさまざまなSF作品)でお馴染みのアイデアが、絶妙な味付けや、別アイデアとの意外な融合、巧みな構成によって、独自の面白さを持った逸品に仕上げられています。
『旅人還る』の、壮大なスケールの中に漂う詩情とラストの感動は圧巻です。かと思えば、『倍速』なんて艶笑譚みたいなオチになっていますし、『超兵器ガ壱號』はあのような終わり方をしていて、SF短編の器を借りた落語のような妙味を堪能できます。『裏町裏通り名画館』みたいな、これといって何も起こらない感たっぷりの作品は、オチを見事にキメてくるF先生のSF短編群の中にあって、逆に異色の存在感を放っています。


 本巻に収録されたのは、小学館ではなく双葉社の雑誌で描かれた作品ですが、ドラえもんが出てくるものが2編あります。『あいつのタイムマシン』でセリフの中に「ドラえもん」という語が出てきますし、『倍速』ではドラえもんの手だけが登場しています。まあ、ドラえもんが出てくると言っても、堂々と登場しているわけじゃなく、ささやかに、こっそりとネタになっている、という感じですけど…(笑)
 あと、『マイホーム』に出てくるタイムパトロールの乗り物(タイムマリン)は、大長編ドラえもんのび太の恐竜』や『のび太の日本誕生』に登場するものと同じですね。それから『倍速』には、『パーマン』に登場する天才科学者・魔土災炎が、“狂気の天才、町の発明家”と名乗って登場します。
 こうした、児童マンガのネタが大人向けのマンガにちらりと出てくる…というF先生の遊び心が楽しいです。
 F先生の遊び心と言えば、F先生は、登場人物のネーミングでダジャレとかモジリといった言葉遊びを行なうことがよくあります。本巻を見ても、ありふれた男だから「有川布礼夫」、いけにえに選ばれる人物だから「池仁平」、アイドルだから「亜伊ドール」など、登場人物名による言葉遊びが随所に見られます。ダジャレなんていうものは無粋な人が使うとあまり愉快なものではありませんが、F先生のような奥ゆかしい洒脱さを持った人がやるとほほえましいユーモアに感じられるから不思議なものです。


 解説は、望月智充さん。『宇宙船製造法』アニメ化のさい望月さんがF先生と交わしたやりとりがよかったです。アニメーション監督の立場から、F先生の作品はマンガという形が最高だと語るくだりも興味を惹かれました。