島本和彦『アオイホノオ』8巻

 島本和彦先生の『アオイホノオ』8巻(少年サンデーコミックススペシャル、2012年5月16日初版第1刷発行)を読みました。
 

アオイホノオ (8) (少年サンデーコミックススペシャル)

アオイホノオ (8) (少年サンデーコミックススペシャル)

アオイホノオ』は、島本先生が大阪芸術大学で過ごした時代を下敷きにした自伝的フィクションです。主人公は、大作家芸術大学映像計画学科に在学する焔燃(ホノオモユル)。


 同級生から「お前も漫画描くんやったら……こういうのを描けよ!」とアドバイスされた主人公ホノオは、内面で「漫画を描く人間にとって…最も言われたくない言葉!!『お前もこういうの描けよ!』」と心情を吐露します。この場面を読んで、藤子・F・不二雄先生のこんな発言を思い出しました。

実はね、僕らが昭和29年に東京へ出てきて持ちこみを始めたときに、ある雑誌の編集長がね…… そのころはもう今以上に僕の絵なんてのは手塚先生の影響を受けてるんですよ…… こういう絵はもう古いんだと、手塚先生はもう過去の人なんだと、これからはこういう絵が流行るんだといって、福井英一さん、武内つなよしさんの別冊付録をくれまして、これを見て勉強しろと。
(『ETV特集 手塚治虫の遺産 アトムとAKIRANHK教育、1995年7月11日放送)

 F先生は、“お前もこういうの描けよ!”的なことを言われたことに加え、尊敬する手塚先生のマンガをネガティブに評されたこともあって、このときは相当に反発心をおぼえたんだろうなと思います。
 上京したてのころ原稿を出版社に持ち込んだF先生の様子を、一緒にいたA先生は次のように証言しています。

原稿を見た編集者ににべもなくいわれたら、黙っていた藤本君が突然編集者から原稿をひったくって、「無駄だ、帰ろう」っていうの。とにかくびっくり。ぼくは「藤子不二雄」の外交係をやってたから憮然としている編集者との間で、今後のこともあるから困っちゃった。でも、しょうがないから失礼して帰ってきた。藤本君は、不愉快だからもう二度と持ち込みはやめようっていう。ぼくもあまり好きじゃないから、やめようってことになった。あとは待てば海路の日和ありといって待ってたよ。そのうちに不思議と仕事がポツポツとくるようになったんだよ
(『藤子・F・不二雄の世界』小学館、1997年3月20日発行)

 この証言からも、“お前もこういうの描けよ!”的なことを言われたときのF先生の反発心が想像させられます。