いま読んでいるSFマンガ

 現在連載中(続行中)のSFマンガのうち、私が単行本を購入して読んでいる作品をいくつか紹介します。


「SFマンガとは何か?」という定義を問いだすとややこしくなるので、ここでは私が「これはSFだ」「SFマインドを感じさせる」「SFと言ってよいのでは」「まあSFと言えなくもない」と思った作品を一括りに「SFマンガ」として扱います。厳密にいえば「ファンタジー」とか「ホラー」といったほうがよい作品もあるでしょうが、空想的(超常的、幻想的、非現実的)な要素が作品の基本設定や世界観と強く結びついた作品全般をここでは便宜的に「SF」とします。

 
弐瓶勉シドニアの騎士』既刊7巻(アフタヌーンKC講談社
 得体の知れない異生物ガウナ(知性はありそうだがコミュニケーション不能な巨大生物)に太陽系を滅ぼされた地球人類は、自分らの種を保存し太陽系を再生するため、播種船シドニアで宇宙へと旅立った…
 本作は、播種船シドニアと異生物ガウナの戦争状態を軸に、播種船内の人間模様や出来事、歴史的背景などを描いています。
 この作者は状況や用語の説明を省くことが多く、読者の想像力に任せる領域がかなりあって、何が起こっているかすぐにはつかみにくい、と言われます。その中にあって本作は、読者に情報が提供されているほうだと感じます。
 播種船シドニアの内部は一つの国家のような状態になっており、町並が広がっていたり祭りが開催されたりして、そこで見られる出来事や光景にゾクゾクさせられます。
 各回の扉絵が「シドニア百景」と銘打たれ、播種船内の各所の景色を緻密に描いています。その一枚絵がとても魅惑的。“宇宙船”というハイテクノロジーな空間の中に、日本の路地裏のようなちょっとうらぶれた風景があったりして、作者の想像力と画力に感嘆するばかり。
 その世界の渦中に濃密にひたれる作品です。来月23日、第8巻が発売予定。



芦奈野ひとしカブのイサキ』既刊5巻(アフタヌーンKC講談社
 神奈川県近辺が舞台になっているのですが、その世界は、どういう訳か土地の面積が10倍ほどに膨張してしまっています。隣の街へ行くために飛行機を使わねばならないほど。タイトルにある「カブ」とは、バイクではなく自家用飛行機の名前です。
 この作品は、そんな世界の中で生活する人々をさらさらとした穏やかなタッチで描いています。10倍ほどに膨らんだ世界の光景を見る驚き、淡々としていながらあたたかな空気感、随所から感じられるほのかな抒情性が心地よいです。
 高さ3776メートルの富士山が10倍に膨張したことで37760メートルとなっており、富士山へ行くこと自体が相当な冒険だったりします。
 この作者の前作『ヨコハマ買い出し紀行』は、第38回星雲賞(コミック部門)を受賞しており、SFファンから評価されています。静謐な終末的世界の中で穏やかに暮らす人々を描いた秀作です。



吉富昭仁『地球の放課後』既刊5巻(チャンピオンREDコミックス、秋田書店
『地球の放課後』というタイトルが往年のSFを彷彿とさせて好ましいです。
 地球上には高校生の男子1人とかわいい女の子3人だけが残され、この4人が自分らの他には誰もいなくなった世界で協同生活を送っています。
 人類がほとんど滅ぼされたかに見える終末的世界を描いていますが、だからといって重苦しい雰囲気にはならず、4人の少年少女が無人の地球でそれなりに生活を楽しむ様子がアットホームな空気感で描写されます。
 男1人に女3人、というハーレム状態になっており、女の子たちはその状態をかなり意識していますが、男の子は淡白な感じです。でも、自分がこの女の子たちを守るんだという気持ちは強いです。
 地球人がなぜいなくなってしまったのかという謎が次第に解明されていきそうな展開に、先を読みたい気持ちを刺激されます。
 終末ものなのに気軽に読めるマンガです。雑誌での連載が最終回を迎え、来月20日に最終巻にあたる第6巻が出る予定。



伊藤伸平『まりかセヴン』既刊1巻(アクションコミックス、双葉社
 女子高生がウルトラマンにみたいな巨大ヒーローに変身して怪獣と戦うマンガです。変身後はヒーロー風の姿になるのですが、三つ編みのお下げ髪が残ったまま…というのがポイントです(笑)
 怪獣に襲撃されて街が破壊され人が死んでいるはずなのに、どこかのほほんとした雰囲気なのが印象的。マニアックな小ネタもいろいろと楽しめます。
 来月28日に第2巻が発売予定。



松本次郎『女子攻兵』既刊1巻(バンチコミックス、新潮社)
“巨大女子高生が戦闘する”という点で『まりかセヴン』と共通していますが、『まりかセヴン』のような明朗な巨大ヒーローものではなく、女子高生型巨大ロボットが兵器として投入された戦争を描いたハードな作品です。ロボットとはいえそれは機械的な存在ではなく、じつに生々しい有機体でして、操縦者はこれに乗り続けると精神が汚染し廃人化してしまいます。このへんはエヴァンゲリオンを下敷きにしていると思われます。
 巨大女子高生が女子高生的なコミュニケーションを交わしながら市街地で戦闘するその状況は、滑稽で異様でシュールです。しかし松本次郎の描画や世界設定に奇妙な説得力があって、ぐいっと引き込まれます。
 この作品の中でほんのわずかだけ藤子ネタが見られます。女子攻兵のパイロットの一人がかぶる精神汚染防護ヘルメットのてっぺんに3本の突起物が付いていて、それを見た人が「Q太郎みたいなのがいるぞ」と言うのです。



井上智徳『コッぺリオン』既刊14巻(ヤンマガKC、講談社
 大地震の発生により東京で稼働していた原発メルトダウン放射能汚染された東京は人が住めなくなって封鎖、首都は京都へ、大企業の本社も関西へ移された。原発事故から20年が経過した西暦2036年、東京に生存者がいるようだと判明し、放射能に抗体を持った少女3人が廃墟と化した東京へ送り込まれる…。そんなところから物語は始まります。
 このマンガは2008年に連載が始まりアニメ化が決定していたようですが、現実に日本で原発事故が起こってしまった影響でアニメ化の話は中断した模様です(アニメ化の話が今どうなっているか詳しいことは知りません)。
 この作品の基本設定が現実化してしまってわけでシリアスな気持ちにならざるをえませんが、本来は大味なバトル・アクションマンガとして楽しめる作品かと思います。とくに、連載が進むにつれて、バトル色が強くなっているような気がします。ヤング誌に連載されていますが、王道少年マンガテイストです。



本田真吾ハカイジュウ』既刊6巻(少年チャンピオン・コミックス、秋田書店
 東京の立川を舞台にしたモンスターパニックマンガです。グロテスクなモンスターに襲われる人々、破壊される街、状況を把握できないまま逃げ続ける主人公たち、国家の不穏な動き…、そういった要素をストレートに堪能できます。綿密に描き込まれたモンスターの奇怪なデザインが魅力的。
 来月6日に第7巻が発売予定です。



鬼頭莫宏なにかもちがってますか』既刊2巻(アフタヌーンKC講談社
 おとなしい中学生・日比野が、転校生・一社との出会いによって自分が超能力を持っていることに気づかされる。不必要な人間はどんどん殺してよい、殺したほうが世のためだと考える一社は、日比野の超能力を用いて“世直し”を始める。日比野は、一社の言うことにずるずると巻き込まれるように世直しに手を染めていく…。
 世直しといっても、中学生が勝手に社会正義と信じ込んでいることを実践していくわけで、それは客観的に見れば独り善がりでイタい行ないです。そんな世直しに巻き込まれていく気弱な日比野の心理が描き出されます。ことあるたびに自分をダメ人間と感じ、こんなことをやっちゃいけないと思いながらも“殺人”という罪を重ねていく彼は、本作最大の被害者であり加害者でもあるような気がします。
 登場人物の名前が名古屋の地下鉄の駅名になっているところも愛知県民として楽しめます(笑)
 鬼頭莫宏さんには『残暑』という短編集があります(IKKI COMIXS、小学館、2004年)。この単行本の帯に藤子不二雄A先生が「懐かしく優しい昨日を思い出す幻想の青春……」というコメントを寄せています。



森恒二デストロイアンドレボリューション』既刊2巻(ヤングジャンプ・コミックス、集英社
 超能力を持ったおとなしい少年(マコト)が、腐敗した社会を変革したいと考える活動的な少年(ユウキ)に引っ張られるかたちで自分たちの正義を執行していく物語…という点で、『なにかもちがってますか』と設定がかなり似ています。似ているぶん、森恒二鬼頭莫宏の作風の違いをくっきりと堪能できます。
なにかもちがってますか』の一社は自分らの行動を“世直し”と呼びましたが、こちらのユウキは自分らの行動を“テロ”と認識しています。
 彼らの“世直し”“テロ”が今後どう展開し、どんな結果を招くのか、先を読むのが楽しみです。
なにかもちがってますか』『デストロイ…』では、社会の不正に憤る人物が超常的な能力を行使して自分なりの正義を執行していくさまが描かれるわけですが、その正義は一般の人々から見れば暴力や犯罪でしかありません。そうした意味で、藤子・F先生のSF短編『カイケツ小池さん』『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』などと通底するテーマを持っているといえましょう。



 ほかにも読んでいる作品はありますが、キリがないのでこの辺にしておきます。
 最後に…
 読むペースがまだ最新巻に追いつけていなかったり、当ブログですでに取り上げたことがあったりなどの理由で今回内容を紹介しなかったものの、私が特に面白いと思って読んでいる現在続行中のSFマンガのタイトルを挙げておきます。


よしながふみ『大奥』
田村由美7SEEDS
地下沢中也預言者ピッピ』
・つばな『第七女子会彷徨
諫山創進撃の巨人
花沢健吾アイアムアヒーロー
桂正和ZETMAN
奥浩哉GANTZ