『ピロンちゃん』と『ピロンの秘密』

 先月25日に発売された藤子・F・不二雄大全集105『ろぼっとろぼちゃん』に、『ピロンちゃん』という作品が収録されています。
 お伴のロボット・ミラと地球へやってきた星の国の王子ピロンちゃんは、地球人のあきおちゃん、てつお兄さんと出会います。ピロンちゃんは悪者に命を狙われています。あの手この手でピロンちゃんを襲う悪者と、ピロンちゃんを守る人たちの冒険活劇!
『ピロンちゃん』は、そんな内容の幼年向け漫画です。以下の雑誌に連載されました。
 ・「幼稚園」1960年9月号〜61年5月号
 ・「小学一年生」1961年4月号〜5月号


 この漫画は手塚治虫先生が原作者です。「幼稚園」1960年9月号で発表された連載第1回は手塚先生ご自身が執筆したのですが、第2回めから藤子・F・不二雄先生が引き継ぎ、そのまま最終回までF先生が執筆したという、珍しいコンビネーションが取られています。
 手塚先生の描いたピロンちゃんと、F先生のピロンちゃんは、コスチュームデザインなどがちょっと違っています。読者からしてみれば、連載第2回からピロンちゃんのコスチュームが唐突に変化したわけです。お話の内容も、連載が進むにつれて、手塚先生が描いた当初の設定から離れていき、藤子Fカラーが強くなっています。
 今回の藤子・F・不二雄全集版には、手塚先生執筆の第1話も含めて全話が完全収録されました。手塚先生による第1話は、すでに手塚治虫文庫全集195『手塚治虫漫画全集未収録作品集』2巻(講談社、2012年)に収録されているのですが、F先生が担当した第2話以降は単行本初収録となりました。
 



 そして、この『ピロンちゃん』は、手塚治虫先生原作の実写番組『ピロンの秘密』(1960〜61、日本テレビ)の幼年版コミカライズ作品、という側面も持っています。
『ピロンの秘密』の原作漫画は、以下の雑誌で手塚先生ご自身が最後まで執筆されました。
 ・「小学四年生」1960年10月号〜61年3月号
 ・「小学五年生」1961年4月号〜7月号
 
 雑誌初出から単行本収録まで非常に時間がかかっており、手塚治虫漫画全集318『ピロンの秘密』(講談社、1993年)が初の単行本化でした。
 



 これまでの話を簡単にまとめますと、『ピロンの秘密』という実写番組が始まるにあたって、原作者である手塚治虫先生が漫画版の『ピロンの秘密』を雑誌連載し、その幼年版である『ピロンちゃん』も手塚先生の手で連載がスタートしたのですが、何らかの事情(手塚先生の多忙?)のため藤子・F・不二雄先生が連載第2回めから執筆を引き継いだ、というわけです。


 ここまで説明したところで、私のコレクションから、実写番組『ピロンの秘密』のメンコを紹介します。
 
 私はこの番組を観たことがないのですが、実際の放映時は時代的に見てモノクロだったはずです。4枚のメンコの右上が主人公のピロン、右下は人造人間ミラ、左側の2枚は悪者と思われます。ピロンの役を演じたのはニッキー窪田というフランスと日本のハーフ少年だったそうです。


 このメンコを裏返してみると…   
 
 表の面と違って、実写番組『ピロンの秘密』の写真ではありません。絵が使われているわけですが、これは漫画版『ピロンの秘密』の絵ではなく、『ピロンちゃん』の絵です。藤子F先生が執筆した連載第2話(F先生が執筆した初回)で描かれたキャラクターをF先生ではない誰かが写したものと思われます。
 上の2枚がピロンちゃん、左下がミラ、右下が悪者(くろぼし)です。


 というわけで、このメンコ、表は手塚グッズであり、裏面は藤子Fグッズであるのです(笑)