講座「手塚治虫のSF作品〜それは『来るべき世界』から始まった〜」】

 10月16日(日)、東京都江東区の森下文化センターにて、講座【SFマンガの魅力 第1回「手塚治虫のSF作品〜それは『来るべき世界』から始まった〜」】が催されました。
 
 
 
 同講座の講師は、辻真先先生と手塚るみ子さん。辻真先先生は、テレビアニメの創世記から数々の脚本を手がけ、その総数は1500本以上と言われる、アニメ脚本界の巨人です。手塚るみ子さんは、当ブログにも何度かご登場いただいているとおり、手塚治虫先生のご長女です。主に、手塚作品のプロデュース活動などをなさっています。
 私は、このビッグなお二人が講師をされる講座の司会進行(聞き手役・タカヒロズ)として登壇させていただくという、身に余る光栄に預かりました。タカヒロズとは、グラフィックデザイナーとしてご活躍中の川口貴弘さんと私のユニット名です。


 森下文化センターに到着すると講座の会場へ案内され、登壇者の控え室で準備にあたりました。相棒の川口さんはすでに到着していました。
 控え室には、手塚プロダクションの松谷社長やメモリーバンクの綿引勝美さんも駆けつけてくださってありがたかったです。辻先生とるみ子さんが会場に着かれて、20分程度打ち合わせをしました。

 
 
 
 
 

 講座の開始は午後2時です。
 時間が来て登壇すると、こういう状況で緊張するのは私には当たり前の事態なのですが、今回もやはり緊張しないわけにはいきませんでした(笑)基本的な進行は川口さんにお任せしたので、その点は心強かったです。


 手塚先生の初期SFを代表する『メトロポリス』『来るべき世界』の話から始めて、『新世界ルルー』&ドラマ『ふしぎな少年』、アニメ『鉄腕アトム』、その他の話題…といった順で進行しました。
メトロポリス』(昭和24年発表)は、辻先生が初めて出会った手塚マンガです。『来るべき世界』(昭和26年発表)は、手塚先生の初期描きおろし単行本時代の金字塔となる作品。ドラマ『ふしぎな少年』(昭和36年〜37年放送)は、辻先生がNHK在籍時に企画・提案し演出も手がけられた作品で、その企画の元となった手塚マンガが『新世界ルルー』(昭和26〜27年連載)です。そして、日本で最初の本格的な毎週30分放送のテレビアニメシリーズ『鉄腕アトム』(昭和38年〜41年放送、全193話)で、辻先生は脚本を何本も書かれています。


 辻先生による解説で当時の手塚作品と時代背景との関係性がクリアに見えてきて、作品への興味がいっそう増しました。
 辻先生が「『メトロポリス』のミッチイに萌えた」とおっしゃったので、私はそこに食いついて、他の女子キャラとは違うミッチイの萌え要素とか、ミッチイが両性具有であることの魅力などをお訊きしてしまいました(笑)
『新世界ルルー』について語るくだりでは、辻先生がこの作品のSF的な魅力・ギャグの面白さなどを語られると、るみ子さんはキャラクター・背景のデザイン性の高さに着眼されて、お二人の読み方が対照的に浮かび上がるかたちになりました。そのおかげで『新世界ルルー』の魅力が多角的に伝わって、講座のあと「『新世界ルルー』を読みたくなった!」という聴講者の声を複数聞くことができました。作中で描かれる“ルルー”という異世界の風景のなかには、どこでもドアみたいなものも出てきます。


 かつて富士見台にあった手塚先生のご邸宅の話題にもなりました。辻先生とるみ子さんが思い出語りをされているシーンが素敵でした。『鉄腕アトム』の「海蛇島の巻」に、アトムの初恋の相手と言われる少女が登場します。その少女の名が「ルミコ」ということから、るみ子さんがご自分の名前の由来やこの名前への思いを語られたのも、個人的に心浮き立つ時間でした。

 
 辻先生が『SFファンシーフリー』のコミックスを持ってこられていたので、当初の予定にはなかったのですが、講座の最後に、この作品についても語っていただきました。同作は読切短編シリーズで、そのなかから辻先生は『そこに指が』や『緑の果て』を紹介されました。手塚SFという文脈では、「SFマガジン」で発表された、というのも重要ポイントです。辻先生がお好きな手塚SF短編として、ほかに『大日本帝国アメリカ県』も挙げられました。


 講座は昭和20年代、30年代の話が中心でした。そんな昔の出来事や体験にもかかららず、辻先生はよどみなくスラスラと明晰に語られて、その抜群の記憶力と話のテンポの良さに感嘆しました。打ち合わせになかった質問もいろいろとしたのですが、どんな質問に対しても即座に話し出されるその反応力の高さにも感服です。
 壮大な手塚SFの魅力の一端を、限られた時間のなかで入門者の方々にもなるべく届けられるよう、辻先生とるみ子さんに質問していったつもりですが、やはり、個人的にうかがいたいこと、その場で頭に浮かんだことが先に口から出てしまいました(笑)


 講座にご来場くださった皆様、あらためて、ありがとうございました!
 そして、講師をつとめていただいた辻先生とるみ子さん、相棒の川口さん、森下文化センターの皆様に深く感謝申し上げます。

 
 
 ・控え室で記念撮影!
  左から、手塚るみ子さん、辻真先先生、私、川口貴弘さん、綿引勝美さんです。