怒りエネルギーの有効利用

 今年初のアニメ『ドラえもん』(1月7日)で放送された2本(「宝さがしペーパー」「カッカホカホカ」)の原作は、どちらもてんとう虫コミックスドラえもんプラス』収録作でした。

・「宝さがしペーパー」は4巻に、「カッカホカホカ」は6巻に収録

 そのうちの1本「カッカホカホカ」は、人間の怒りの感情が有するエネルギー、すなわち怒りエネルギーを有効利用する話です。

 怒りエネルギーの有効利用というアイデアから、私は「まあまあ棒」(てんとう虫コミックス23巻)のラストを思い出しました。

 

 「まあまあ棒」のラストで、ジャイアンの腹の中に積もり積もった怒りエネルギーが大爆発を起こし、その光景を見ながらドラえもんがこう言います。

「あのすさまじいエネルギーを、なんとか平和に利用できないものだろうか……?」

 

 “まあまあ棒”というひみつ道具には、怒っている人のその怒りを一瞬にして手軽に静める働きがあります。より正確に言えば、怒りを静めるのではなく、怒りを腹の中に吞み込ませ我慢させる道具です。怒りを簡単に消してしまえるわけではないのです。

 ですから、やたらに怒りを呑み込ませてしまうと、腹の中に積もり積もった怒りが火山のように大爆発を起こす危険性が拡大します。

 

 怒りを何度も無理やり呑み込まされたジャイアンの大爆発は、じつにすさまじいものでした。

 その大爆発シーンが、「まあまあ棒」のラストで描かれているのです。

 

 “まあまあ棒”は、そのように怒りエネルギーを抑え込むことはできるものの、有効に活用することまではできません。

 それに対し、怒りエネルギーを平和的に有効利用できるのが、今回のアニメに出てきたひみつ道具“カッカホカホカ”です。怒っている人から怒りエネルギーを吸いとって熱エネルギーに変換し、ストーブやカイロのような暖房器具として使うことができるのです。

 

 「カッカホカホカ」の作中では、この道具のおかげで、いつも恐ろしく怒っているおじいさんといつもビクビクオドオドしている孫の関係が平和的なものに変わります。怒りエネルギーを物理的に有効利用するばかりか、人の心を和ませ家族関係をよくする副次的なプラス作用までもたらしたのです。

 なんと、すばらしい効果効能でしょう!

 

 そんなふうに“カッカホカホカ”は怒りエネルギーを平和的に有効利用できる、ありがたい道具なわけですが、今回のアニメ版では、“カッカホカホカ”の平和的有効利用に失敗してしまうオリジナルシーンが追加されました。

 福引きに外れまくって怒りを蓄積したジャイアン……。ドラえもんのび太は“カッカホカホカ”でその怒りエネルギーを吸いとろうと試みたものの、吸いとりに失敗してしまいます。ゆえに、「まあまあ棒」のラストと同じく、ジャイアンは積もり積もった怒りエネルギーによって大爆発を起こすのでした。

 これを見ると、ジャイアンのすさまじい怒りエネルギーを人為的にコントロールしたり平和的に利用するのはじつに難しいことなのだなあ、と痛感させられます(笑)

 ジャイアンの怒りエネルギーは非常に強力なのでうまく使えば多くのことに役立ちそうですが、そのぶん取り扱いが難しい、厄介なエネルギーでもあるようです。

 

 ちなみに、てんとう虫コミックス42巻収録の「感情エネルギーボンベ」に出てくるひみつ道具“感情エネルギーボンベ”なんかも、“カッカホカホカ”同様に怒りエネルギーを吸いとって有効活用できる道具です。怒りの主から少し離れたところで怒りエネルギーを吸いとれるので、怒りの主の体にプラグを直接挿し込まねばならない“カッカホカホカ”よりも、より便利な道具といえそうです。吸いとった怒りエネルギーの用途も、お湯をわかしたり、電灯をつけたり、ラジカセを鳴らしたり、ラジコンを動かしたりと、暖をとるだけの“カッカホカホカ”よりずいぶん広いです。“カッカホカホカ”の発展型道具が“感情エネルギーボンベ”なのです。

 

*追記
 アニメオリジナル作品ながら、“まあまあ棒”によって積もり積もったジャイアンのすさまじい怒りエネルギーの爆発を平和利用できた成功例がある、との指摘をいただきました。
 2016年12月9日放送の「南極ペンギンを救え!」です。
 ペンギンたちの生活をおびやかす巨大氷山を崩すことに、ジャイアンの怒りエネルギーの爆発が役立ったのです。