「フィーバー!!ジャイアンF・C」「グンニャリジャイアン」放送

 5月19日(金)放送のアニメ『ドラえもん』は、キャラクター大分析シリーズ!第3弾「ジャイアンDAY!」。
「お前の物は俺の物、俺の物も俺の物」*1というセリフに象徴される、ジャイアンの自己中心的・理不尽・手前勝手・粗暴な思考・行動様式を〝ジャイアニズム〟と呼ぶ向きがある。今回は2本ともジャイアンが主役の話なので、ジャイアニズムが炸裂するのは必至だ。



●「フィーバー!! ジャイアンF・C(ファンクラブ)」


【原作】

初出:「小学六年生」昭和57年11月号
単行本:てんとう虫コミックス第33巻などに収録

 本作では、話の初めのほうでジャイアニズムといってよいジャイアンの思考様式が見られる。伊藤翼ファンクラブの全国大会に行ってきたというスネ夫の話を聞いたジャイアンは、なぜか怒り出す。ジャイアンは、同じ歌手として伊藤翼をねたましく思い気が変になりそうだったのだ。ジャイアンは言う。「翼が歌手ならおれも歌手!なのになぜ彼女だけが……。なんでおれにはファンクラブがないんだ」と。
 この思考の仕方がジャイアニズムである。本物の人気アイドル歌手である伊藤翼と、友達の内で迷惑がられながら自分が歌手だ言い張っているジャイアンジャイアンは、客観的には比べるまでもないその両者を同格とみなし、伊藤翼に本気で嫉妬して自分のファンクラブがないことを嘆く。その不合理なまでに高い自己評価、客観性を無視した手前勝手な勘違いは、まさにジャイアニズムの発露である。ただし、こういう理不尽をもっと堂々と当たり前のように言い切ってこそ完成されたジャイアニズムだが、本作のジャイアンは、自分のファンクラブがないことを気に病み、ファンの中からファンクラブを作ろうという動きが盛り上がらないことを嘆き、あげくのはて、ドラえもんに「ファンクラブ製造機をだしてくれ!!」と泣きつくわけで、ジャイアニズムの在り方としては実に中途半端である。ドラえもんに泣きつくところなど、のび太的とさえいえるだろう。



 本作で傑作なのは、ひみつ道具のおかげで自分のファンクラブができたことを喜ぶジャイアンが、「これでおれが町を歩くとファンがキャーキャーさわぐわけか」と言って実際に町を歩き、スネ夫を見つけた瞬間ジャイアンのほうが「キャーキャー」と騒ぎ立てる場面だ。自分のファンクラブの会員であるスネ夫を発見して大喜びするジャイアンと、ジャイアンを見てもつまらなそうな顔をしているスネ夫の、立場の転倒と態度の対照が非常に面白い。




【アニメ】(世紀のスーパースター!! フィーバー!ジャイアンF・C)


・冒頭に伊藤翼のコンサートシーンが追加された。これは魅力的なつかみだった。


・「おれの芸能生活もすでに長い」だなんて大まじめに語るジャイアン。それを木村昴くんの声で聴くと、いっそう滑稽さが増して可笑しくなる。


ジャイアンは、スネ夫が買ったばかりのスケッチブックに「剛田武」とサインする。このサインが原作より上手になっていた。


・〝ファンクラブ本部〟の熱狂度目盛りを上げたため、ジャイアンは、大勢のファンに囲まれてサインをせがまれる。そんな状況に感激しつつ、「おれ、サングラスかけよう」とつぶやくジャイアン。原作ではただつぶやくだけだったが、アニメでは本当にサングラスをかけて笑わせてくれた。


・熱狂度目盛りを最大限に上げたことで、ジャイアンのコンサートチケットを買い求めるファンが野比家に殺到し、コンサート前日から会場の空き地に大勢のファンが行列をなした。原作では、こうした群衆シーンを省略して表現していたが、アニメでは群衆の一人ひとりをしっかり描いて、その人数の多さを示したため、ひみつ道具によって作られたジャイアン人気の熱狂度が凄まじく感じられたし、その熱狂に恐怖を感じて自らファンクラブ解散を申し出たジャイアンの気持ちが痛く理解できた。


・皆がお揃いの〝タケシうちわ〟を持って、ジャイアン応援の練習をするシーンが愉快だった。




●「グンニャリジャイアン


【原作】

初出:「てれびくん」昭和56年7月号
単行本:てんとう虫コミックス第29巻などに収録

 本作の冒頭では、ジャイアニズムがストレートに炸裂するより前に、ジャイアンの意外な側面が露顕する。ふだんは強気で粗暴なジャイアンも、好きな女の子の前ではウブでオクテになるのである。女の子とのすれ違いざま笑顔をふりまこうとするが、しまりのないにやけた顔しか作れず、逆に気味悪がられる始末。それで、がっくりとうなだれて悩む様子が、〝グンニャリジャイアン〟というわけだ。
 ジャイアンが「声をかけようと思うけど……、おれって ほら…、内気だろ…」と言うので、のび太スネ夫は笑いをこらえるのに必死。〝内気〟というジャイアンの自己分析は、通常の彼にはあてはまらないが、今回に限ってはそのとおりで、恋をすればジャイアンでもデリケートで純なひとりの男の子になってしまうのだ。
 しかし結局ジャイアンは持ち前のジャイアニズムを発揮し、「三時間のうちに、あの子とおれを友だちにしろ!」「成功したやつは心の友だ。失敗したやつは、ただではすまねえぞ!」と無理難題をのび太スネ夫に押しつける。それでこそ、ジャイアンなのだろう。



 本作にはジャイアンドラえもんによる濃厚なキスシーンがあって見どころだ。いや、見たくない箇所か…



 ラストのコマ、ジャイアンはずっとグンニャリしたまま、スネ夫ジャイアンから逃げ回るのに一生懸命。「町の平和のために、しばらくこのままにしておこうか」と語るドラえもんの冷静な観察眼に、こちらも「うん、うん」と納得させられる。




【アニメ】(ジャイアンの恋人!? グンニャリジャイアン


ジャイアンが思いを寄せる女の子。その女の子のそばに何気なくいる小犬の飄々とした魅力に私は参った。小犬が生物コントラーローで操作され、いきなり直立二足歩行をはじめたときの動きなんて、そのとぼけた具合が最高だった。今回は、本筋よりも、この小犬一匹の虜になってしまった感がある。


ジャイアンドラえもんの口づけはアップで映された。やっぱり見どころだ。


・ラスト、親戚の家へ遊びに来ていた女の子が大阪へ帰ったとも知らず、グンニャリし続けるジャイアンの様子に笑った。あの首のかしげ方や体の揺らし方は絶妙だ。話の初めのほうの、「おれって、ほら、内気だろ」と言うジャイアンのモジモジっぷりもよかった。

*1:2004年12月15日放送の「トリビアの泉」(フジテレビ)で『ジャイアンの口癖「お前の物は俺の物 俺の物も俺の物」はイギリスのことわざ』というトリビアが紹介された。元々は、シェイクスピアの「尺には尺を」という作品に「俺の物はあんたの物 あんたの物は俺の物」というセリフがあり、それをジョナサン・スイフトが「上品な対話」(1738年)の中で「お前の物は俺の物 俺の物は俺自身の物」と変形させた。現在のイギリスでは基本的に「傲慢である」という意味で使われる、とのこと。VTRの最後で〝たしかにジャイアンの口癖「お前の物は俺の物 俺の物も俺の物」はイギリスのことわざだった〟というフレーズを、たてかべ和也さんがジャイアンの声で読み上げた。(たてかべさんは声のみの出演)