「このかぜうつします」「温泉旅行」放送

わさドラ』本年2回めの放送。
「このかぜうつします」は風邪を題材にした作品とあって、この寒い時期にぴったり。「温泉旅行」は正月の話なので、これもこの時期に放送するのにふさわしい。



●「このかぜうつします」

初出:「小学四年生」1974年2月号
単行本:「てんとう虫コミックス」2巻などに収録

【原作】
 風邪をひいて熱があるのに会社へ出勤しようとするくそまじめなパパを見たのび太が、一発で風邪の治る薬はないかと尋ねると、ドラえもんは「かぜをうつす機械ならあるけどね」と答える。のび太はその機械を使って自分がいったんパパの風邪を引き受け、そのあと誰かに風邪をうつすことにした。


 風邪を他人にうつす機械だなんて、うつされる人にしてみれば迷惑な話だし、うつすほうだって良心の呵責をおぼえることになるが、のび太は、風邪くらいひかせてもかまわない憎たらしいやつにうつしてやろうと考えた。この機械は、風邪をひいて困っている人を助けるだけでなく、嫌いな相手へ復讐や嫌がらせをするためにも使えるのだ。
 のび太が風邪をうつす相手として真っ先に思い描いたのがジャイアンである。さっそくジャイアンの家へ行ってみるが、ジャイアンは留守らしい。そのときのび太が発した「だからぼくは、あいつが大きらい……」というセリフは、普段から蓄積した恨みがあるにしろ、ただ留守だっただけの相手に向ける言葉としては言いがかりめいていて可笑しい。
 ようやくジャイアンに会えたのび太が「あえて、よかった」と喜ぶのも、普通なら会わずに済ませたいジャイアンに向けたセリフだと思うとおもしろい。そのときジャイアンは、意外にも、風邪をひいたのび太にいたわりの言葉をかけてきた。そのためのび太は風邪をうつしそこなって、「こんなときに、あんなやさしことをいうなんてひどい!」と、やさしい言葉をかけてくれた相手に対して理不尽な怒りを抱くのだった。

 
 最後に風邪をひきたがっている男が現れたおかげで、のび太は誰にも迷惑をかけることなく、他人に風邪をうつすことができた。風邪をうつす機械は、こういう変わった人がいない限り、はた迷惑な結果を招きがちな道具である。



わさドラ】(謎のはだかおとこ? このかぜうつします)
 のび太は、風邪をうつそうとするターゲットをジャイアンスネ夫だけでなく、ほかの人にも拡大。「どうしてもしずかちゃんが出木杉の家へ行くと言うのなら」としずかちゃんに風邪をうつすことをほんの一瞬考えただけでもちょっと悪いが、そのうえ、罪のない先生や出木杉の家へ出かけて彼らに風邪をうつそうとしたのだから、今回ののび太は、明らかに原作より悪い用途でかぜうつし機を使おうとしたのだ。
 のび太が先生に風邪をひかせたい理由は、先生を風邪で休ませ翌日の算数のテストをなくしたいからだった。だが、そうなると、先生は一日中自習にしてテストばかりやると言うので、のび太は作戦を取りやめる。
 出木杉に対しては、今ごろしずかちゃんと楽しく遊んでいるであろうことを妬んで風邪をうつそうとするが、すでに出木杉はひどい風邪をひいていて、それに同情したのび太出木杉の風邪も引き受けることに。パパと出木杉、2人分の風邪にかかったのび太の症状はさらに悪化する。
 このシークエンスでは、ひみつ道具を手に入れるとついつい悪ノリしてしまうのび太のクセが原作以上に出てしまったわけだが、結果的にのび太出木杉の風邪まで引き受けたため、のび太の悪い面ばかりでなくやさしい側面も描かれる格好になった。


 探していたジャイアンにようやく会えたとき、ドラえもん歓喜のダンスをしつこく踊り続ける。そんなにジャイアンに会えたのが嬉しいのか、ドラえもん(笑)


 原作で、はだかの男は風邪をひきたい理由として「ある人をすきになっちゃったんだ。かんごふさんなんだ。なんとか友だちになりたくて…。かぜでもひいて、病院へ行こうと思ったのに。あいにく、じょうぶすぎて」と語っている。原作ではこのセリフの中にしか登場しない看護婦さんだが、『わさドラ』ではその姿がはっきりと描かれた。はだかの男が病院の敷地に生えた木に身を隠し、窓の向こうで仕事をする看護婦さんの姿を眺めていたのだ。この行為、看護婦さんへの想いの深さのあらわれともいえるが、ちょっとストーカーっぽいところもある。
 ちなみに、『わさドラ』では〝看護婦さん〟という言葉は使われず、はだかの男が看護婦さんのほうを指さし「ぼく、あの人、好きになっちゃったんだ」というセリフで看護婦さんの存在が示された。今の時代なら〝看護婦〟ではなく〝看護師〟という言い方になるのだろうが、今回は〝看護師〟という言葉も使われなかった。




●「温泉旅行」

初出:「小学四年生」1973年1月号
単行本:「てんとう虫コミックス」6巻などに収録

【原作】
 室内旅行機を使って野比家を温泉旅館にし、家族みんなで温泉旅行気分を味わうという、読んでいる側もほのぼのあったか気分になれる話。ただしこの道具、野比家を本当の温泉旅館にするのではなく、立体映像によって温泉旅館に見えるようにするだけなので、視覚的には広々となっても、実際は元の家のままなのだ。だから、パパが広い廊下だと思って駆け出すとすぐに実際の壁にぶつかるし、ゆったりした部屋だと思って歩くと、元々そこに置いてあったテーブルに当たってしまう。そのたびにドラえもんが「ほんとはせまいへやだから」と注意するので、パパは「いちいち、せまいせまいというなよ」と苦々しい顔。このパパのセリフと表情が笑いを誘う。
 

 本作では、パパと天丼屋が、それぞれ違う場面で言葉にならない意味不明の叫びをあげる。その様子が実に可笑しいし、言葉にならない叫びを△∞♂などの記号であらわすところが印象に残る。


 ラスト、ドラえもんが女装して旅館の人になりすまし、宿泊料を催促にくる。かつらをかぶり口紅をひき、ミニスカートまではいたドラえもんの女装は見もの。



わさドラ】(ドラえもんもお風呂に!? 温泉旅行)
 野比家の中に映し出された温泉旅館が、ちょっと豪勢で品格のあるものになった。旅館内の情景がこまかく描かれ、本当は狭い家のままだけれど広く見える旅館を満喫する野比一家の行動も丹念に描写されて、私も、温泉旅館に変貌した野比家の様子をけっこう堪能できた。時代による物価の変化もあるだろうが、ドラえもんが言う一泊の料金が原作の5千円から2万円に上昇。


 大広間で食事をとる団体客の中に、小池さんがまじっていた。ほかにも見覚えのある顔があったような…。


 ラストで女装するドラえもん、『わさドラ』では、日本髪のかつらをかぶり着物を着て、女将の扮装で登場。原作に負けないくらいの笑いどころとなった。温泉旅館という設定だから、女将の姿のほうが、感じが出る。