「税金鳥」「とう明人間目ぐすり」レビュー

 11月3日(金)、アニメ『ドラえもん』で「税金鳥」と「とう明人間目ぐすり」が放送された。


●「税金鳥

原作初出:「小学四年生」昭和54年10月号
単行本:「てんとう虫コミックス」第22巻
アニメサブタイトル:「もらうほどへっちゃうおこづかい? 税金鳥

 子どもの小遣いに税金をかけるというアイデアと、それによって生じる様々な反応・出来事が面白い作品。そのうえで、大人の社会を風刺した作品としても堪能できる。
 多くの小遣いをもらっている(蓄えている)者ほど高率の税金をとられる(累進課税制度)とか、狡猾な方法で税金を払わずに済まそうとする者が出る(税金逃れ・節税)といったくだりは、“子どもの小遣いに税金をかけたらどうなるか”という“IF”の世界を通して、現実の大人社会を生々しく垣間見るようだ。


 ふだんは小遣いの少なさを嘆いているのび太にとって、この税金制度は喜ばしいものだったはずだが、税金制度を導入したとたん予想外の収入があって高額の納税を強いられる。そんなのび太の運の悪さも可笑しい。のび太と同様、税金制度の導入に積極的だったジャイアンが、道端で拾ったわずか10円のためその税金制度を自ら崩壊させてしまうという顛末も愉快だ。


 アニメでは、はる夫が小遣いを本の間に隠して税金逃れしようとするとか、しずかちゃんが弾くバイオリンで税金鳥が苦しむとか、のび郎おじさんがアフリカ土産の仮面をかぶって登場するとか、原作にはない細かい味付けがあって目を惹いた。



●「とう明人間目ぐすり」

原作初出:「小学生ブック」昭和49年9月号
単行本:「てんとう虫コミックス」第8巻など
アニメサブタイトル:「ドラミちゃん式ひみつ道具 とう明人間目ぐすり」

 原作は、「小学生ブック(「小学館BOOK」の時期もあり)」に『ドラミちゃん』という題で連載された一編だ。この『ドラミちゃん』は全部で8話あり、第1話を除く7話分が『ドラえもん』の単行本に収録された。
『ドラミちゃん』は、ドラミがのび太の遠い親戚にあたるのび太郎の家に居候するという設定で、レギュラー登場人物の顔ぶれが『ドラえもん』とは違っていた。そのため、単行本に収録されるさい、レギュラー登場人物の顔や名前が描き換えられた。誰がどう描き換えられたかは以下のとおり。


のび太郎→のび太
・みよちゃん→しずちゃん
・カバ田→ジャイアン
のび太郎のママ(野比のぶ子)→のび太のママ(野比玉子)
のび太郎のパパ→のび太のパパ


 これらの描き換えのうち、のび太郎はのび太の顔にそっくりなので名前のみの変更で、あとは名前のみならず顔も描き換えられた。てんとう虫コミックスの初期の版を見ると、修正ミスによって「みよちゃん」「カバ田」「野比のぶ子」といった名前が残っている箇所がある。のび太がしずかちゃんのことを「みよちゃん」と呼んだり、ジャイアンのことを「カバ田」と言ったりするのを読んで、違和感を持った方もいるのではないか。


 この『ドラミちゃん』全8話は、科学的な薀蓄や資料が丹念に提示されたり、山奥村・地底・海底といった場所へ冒険に出かけたり、と歯ごたえやスケール感のある作品が多いのが特徴だ。
 今回の「とう明人間目ぐすり」では、ドラミちゃんの口から、体の透明な生物の種類、人間の体で透明な部分、透明人間目薬によって人間が透明になる原理などが説明されて、科学への興味を誘う。


 今日のアニメでは原作に登場しないドラえもんも出てきて、ドラミちゃんと一緒にそれぞれの大好物であるドラ焼き、メロンパンを買って食べていた。兄妹が2人並んで仲良く大好物を食べるさまは、ほのぼのとした気分にさせてくれた。
 このアニメオリジナルの追加ネタによって、ドラミちゃんが22世紀から現代に訪れる理由と、原作には出てこないドラえもんが登場する理由が与えられた。