「Quick Japan」Vol.64は映画『ドラえもん』特集

koikesan2006-02-12

 きのうも少し触れたが、「Quick Japan」Vol.64(太田出版)が、永久保存版・映画『ドラえもん』という特集を組んでいる。前号の予告でこの特集があると知ってから楽しみにしていたが、期待にたがわぬ充実の内容だった。


 映画『のび太の恐竜2006』の楠葉宏三総監督と渡辺歩監督による対談、新レギュラー声優陣の座談会、藤子・F先生の二女・日子さんの談話、芝山努氏ら3名による映画ドラえもん25作品完全解説、小学館の平山隆氏や元アシスタント・むぎわらしんたろう氏のインタビューなど、映画ドラえもんの関係者が続々と言葉を発してくれている。


 現行のスタッフや声優陣が登場するだけでなく、昨年のリニューアルによってドラを降板した芝山努氏が、自身が監督した映画ドラ22作品を解説してくれたのはとくにありがたい企画だった。芝山氏は、F先生の存命中、F先生が執筆する原作マンガのストーリーを追いかけるようにして劇場用アニメを制作していたが、その過程でアニメの制作進行が原作マンガのストーリーを追い越してしまうため、芝山氏が考案したアイデアやデザインをF先生が原作マンガにフィードバックすることもあったという。そういった制作舞台裏が芝山氏の口から語られることで、藤子・F・不二雄芝山努という2人のベテラン・クリエーターが、ハードスケジュールに追い立てられつつも、信頼感あふれる相互関係を築きながら毎年確実に映画ドラを世に送り出してくれていたのだなあということが、ある種の感動を伴って伝わってくる。F先生死後の映画ドラのうち『翼の勇者たち』『ロボット王国』などは芝山カラーが前面に出た作品だという話も興味深かった。


 楠葉・渡辺対談では、渡辺氏が、なまじ濃厚な『ドラえもん』体験があったため批評精神が働き、原作を壊してやろうという意識が出たことで、「ドラクラッシャー」と呼ばれるまでになって物議をかもした事態を、自らの口から語っているのがおもしろかった。私は渡辺氏のドラクラッシャーぶりに否定的な側だったので、渡辺氏から「今回の再スタートに際しては、僕も率先してゼロに戻したいと思いました。もう一度、F先生の原作に忠実なスタイルに帰って…」という言葉が出たことを歓迎したい。
ドラえもん』という作品が持つ普遍性を信じつつも、今の子どもたちに向けてアニメ化していくうえでは同時代性を伴った加工も必要だ、という彼らの認識も心にとまった。


 F先生ご本人のファンとしては、次女の日子さんや、先生のもとでアシスタントを務めたむぎわら氏がF先生の人となりや仕事ぶりを語ってくれたのも嬉しい。日子さんが、父であるF先生がフタバスズキリュウについて熱く語ってくれたことを述懐するくだりはとくに心に残った。このくだりを胸に懐きながら『のび太の恐竜2006』を鑑賞したい。


 今回の特集に登場した顔ぶれを見れば、『わさドラ』が好きな人はもちろん、リニューアル前の映画ドラが好きな人も、原作やF先生が好きな人も興味を持てるような面々を揃えていて、よくぞこれだけのメンバーを登場させてくれたと感激する。そのなかでも、芝山氏が映画ドラ各作品について解説してくれたのが最高のプレゼントだと思う。


 同特集内の永久保存版・映画『ドラえもん』大事典もなかなかよかった。こういう類の事典企画は、ファンから見るとツッコミどころ満載だったり、薄っぺらな印象を拭えなかったり、いいかげんな知識が羅列されていたりすることがままあるものだが、今回の記事は資料をよく調べ、マニアックな豆知識も添えたりしていて、読んでいて満足感の残るものだった。