F全集第2期第2回配本

 9月24日(金)、藤子・F・不二雄大全集第2期第2回配本の3冊が発売されました。取り急ぎの感想を。


■『大長編ドラえもん』第1巻
 
のび太の恐竜』『のび太の宇宙開拓史』『のび太の大魔境』と大長編ドラえもんシリーズ最初期の傑作3本を収録。これまで単行本収録時に省かれていた連載時のカラー扉絵などもばっちり収録してくれています。
「恐竜」と「宇宙開拓史」は、ドラえもんファンの小学生だった私が小学生時代にリアルタイムで読んだ作品で非常に思い入れが深いです。客観的にも優れた作品だと思いますし。この時代のF先生の絵の、抜群の安定感も心地よいです。
 いま考えるともったいないことですが、コロコロコミック連載中の「宇宙開拓史」のコマを切り抜いてスクラップブックに貼って遊んだことが思い出されます。
 
 ・コロコロコミックから「宇宙開拓史」のコマを切り抜いて貼ったスクラップブック


「大魔境」の思い出としては、バウワンコ1世の巨神像のイラストを描いて藤子スタジオ(当時の藤子両先生の仕事場)へファンレターを送った、なんてことがありました。それから、本作の主題歌『だからみんなで』は、10代の頃の私の個人的なテーマソングというか応援歌のようなものでした。



■『少年SF短編』第1巻
 
 第1巻は「少年サンデー編」。週刊少年サンデー本誌あるいは増刊で発表されたSF短編作品を全部で9編収録しています。どれも秀作ばかりで読み応えたっぷりです。これらの作品を初めて読んだときの驚きや心の響き、面白かった〜!という満足感が歳月を経た今もまだ胸の残っている感じです。そして、この1冊を眺めていると、1983年にてんとう虫コミックスから『藤子不二雄少年SF短編集』が発売されたときの言い知れぬ興奮を思い出します。
 
 ・藤子・F・不二雄大全集『少年SF短編』第1巻と、てんとう虫コミックス『少年SF短編集』第1巻


 F全集はカラーページを再現した形で読めるし、第1巻は初出が少年サンデーの作品だけで構成されているので、今まで何度読んだ作品でもまた新鮮な感覚で興味深く読めそうです。『ひとりぼっちの宇宙戦争』や『流血鬼』は、単行本収録時F先生がカラー画稿に描き加えたコマがいくつもあって、その部分はモノクロ印刷を前提にしているためモノクロの薄墨?で塗られています。同じページなのにコマによって2色カラーだったりモノクロだったりと妙な読み味を体験できるわけです。そういう試みは、一般の無難な単行本ではやらないと思うので、そうしたところもF全集の魅力と頼もしさでしょう。
 各作品のタイトルロゴがオリジナルにきっちり戻されているのもポイントが高いです。


『未来ドロボウ』を初めて読んだとき私は年齢的に完全に主人公の少年の立場(未来がたくさん残されている立場)だったんですが、現在の私の年齢は少年と老人の中間にあります。少年と老人どちらの年齢からも外れているけれど、どちらの思いも自分にとって結構切実に感じられる、という複雑な心境です。
『宇宙船製造法』は、子どもたちの社会のなかで発生する軋轢や権力闘争を描いているという点で、A先生の『少年時代』と通ずる作品だと思います。F先生は未来の宇宙を舞台に、A先生は過去の日本の田舎を舞台に、それぞれの作風を活かしながら『十五少年漂流記』や『蝿の王』的世界を描き出しているのです。
『山寺グラフィティ』は、数々のSF短編のなかでも、具体的な風景描写と詩的な抒情と民俗学的な素材で異彩を放った珠玉の一編です。独特の読後感を残します。
 その他の作品も、SFアイデアが利いていて、ストーリーテリングが絶妙で、思春期的心理が浮かび上がり、センス・オブ・ワンダーを堪能できるものばかり。



■『パジャママン』(同時収録:『きゃぷてんボン』『とんでこいようちえんバス』)
 
 これまで一度も単行本化されたことのなかった藤子F幼年版ヒーローもの『パジャママン』がついに単行本にまとめられました。『パジャママン』は大作詞家・阿久悠さんが作った『パジャママンのうた』を原案にした作品で、アニメ化の企画も進められていたようです。
 同時収録の『とんでこいようちえんバス』も単行本初収録です。もう一つの同時収録『きゃぷてんボン』は、1989年に刊行された藤子不二雄ランド『宙犬トッピ』全1巻に併載されましたが、この単行本もとっくに絶版になっていますから、この作品が手軽に読めるようになって喜ばしいです。


 パジャママンのコスチュームは、数ある藤子Fヒーローのなかでもデザインが派手めです。でも、変身するさいは普通に服を着るように着替えなければならないので地味です(笑)
 本作に出てくるSFアイテムのネーミングは、睡眠に関したものが目立ちます。パジャママン、ネグリちゃん(設定画より)、ユリカ号、ユメジ星、ドリームガン…といった感じです。昔、ユリカ号が“揺り籠”から来ていることに気付いたとき、「なるほど!」と膝を打った記憶があります。
 町内レベルの範囲を舞台にしているわりに、誘拐犯や窃盗犯がよく出没するその犯罪率の高さも印象的(笑)
『きゃぷてんボン』は、無邪気で世間知らずの発明家のパパと、パパに言いつけをするしっかり者の息子ボンの関係性がまず面白いです。マスコットキャラのムックが関西弁ふうに喋るのもツボ^^