原恵一監督トークイベント&映画『かがみの孤城』舞台挨拶付き上映

 12月23日(土)、原恵一映画祭プレゼンツ「開城一周年 原恵一監督トークイベント」に参加しました。

 会場は名古屋のシネマスコーレの2階。映画『かがみの孤城』公開1周年記念のイベントでした。

 

 会場内に響き渡る盛大な拍手のなか入場した原恵一監督。トークの導入部は、今年はほとんど仕事をしていない、ということでした。時間がたっぷりあったため、書きかけだったオリジナルの脚本・プロットを完成させたり、フランスや東ヨーロッパの映画祭へ出かけたり、サブスク配信を観ていたりしたそうです。

 オリジナル脚本・プロットは原監督が個人的に書き進めているもので、現時点で仕事にはつながってはいないようです。原監督がどこからの要請もないのにご自分の自由意思で書かれた脚本、ものすごく気になります。いつか企画が立ち上がって作品として観られることを強く願っております。

 海外の映画祭に出かけた話題のなかでは、ポーランドのアニメフェスで審査員をしたときのエピソードを詳しく聞かせてくださいました。海外のアニメを観ると、日本のアニメがいかに独特な進化をしてきたかわかるそうです。

 携帯電話もインターネットもやらない原監督ですが、配信はテレビで観られるようにしてもらった模様(笑)

 

 映画『かがみの孤城』の海外での反響は日本と変わらない。海外でもいじめや不登校の問題があって、どこの国で上映してもよい反応がある。フランスではそういう学校になじめない子たちの多くが日本のアニメーションに共感している……。

 というお話も非常に印象深かったです。

 それなのに賞はもらえなかった(笑)というオチも。

 

 トークイベントの終盤は、原恵一監督が最も大好きな脚本家・山田太一さんの逝去を悼み、山田さんへの深く熱い思いを語られる時間となりました。

 山田さんが発表したすばらしい文章をじっくり心を込めて読み上げる原監督。その目に涙を浮かべておられました。

 山田さんから原監督に届いた懇切な手紙も朗読されました。監督の目にさらなる涙が…。この手紙を受け取ったときの原監督の喜び、そして山田さんが他界してこの手紙を読む原監督の思いを想像すると、私の胸にも込み上げるものがありました。

 

 原監督は山田太一さんの生粋のファンなのだなあ、としみじみ感じる瞬間が多々ありました。山田太一さんとはずっと片思いでいてもよかったのに実際に会えることになって(会えるのは光栄で嬉しいことだけれど)もし失礼なことを言って嫌われたらどうしようと思った……と乙女心にも似たデリケートなファン心理を目を輝かせながら語っておいででした。そのときの原監督の表情がじつにステキだったな。

 

 

 シネマスコーレ2階で開催された「原恵一監督トークイベント」が終わって1階に下り、続いて行なわれた「『かがみの孤城』舞台挨拶付き上映」にも参加しました。

 2022年12月23日に公開が始まったのこの映画を、ちょうど1年後の2023年12月23日に劇場で観られて感無量です。

 この映画を観るのは2回目ですが、その名作っぷりをあらためて強く実感。心を揺さぶられてやみませんでした。

 主人公の安西こころが今まで母に言えなかったことを打ち明けるシーンあたりから、私の感情がぶわっと決壊して、たびたび涙がこぼれました。

 こころ役の當真あみさんの声質が、こころのイメージに驚くほどぴったりで、その声、その演技に終始聞き惚れました。この映画の初見時も、こころの声にずいぶん魅了されたのをおぼえています。

 

 『かがみの孤城』上映後のQ&Aで、こころが鏡を通って異世界へ行く前に部屋で靴を履く行為がきちんと描かれていることが話題になりました。原監督は、藤子・F・不二雄先生のアニメをやったとき“靴問題”を経験したことからこのような描写を入れた、とのお答えでした。

 藤子Fアニメの靴問題とは、のび太が2階の部屋の窓から(靴を履いた様子もなく)タケコプターで飛び立ったあとどこかに着地するさい靴下のままだとまずいけれど靴を履いているのも不自然で……という問題です。

 その問題を体験したからこそ、アニメ『エスパー魔美』をやったときは、初めのほうの回で魔美が飛び立つとき靴を履く描写を入れることで、その後の回も「魔美は毎度靴を履いてるんだよ」と示したとか。

 そのことを踏まえて、『かがみの孤城』でも靴を履く描写をきちんと入れることになったのです。

 

 高山みなみさんが声を演じたマサムネが「真実はいつもひとつ!」と言うシーンがあります。コナンくんの有名な決めセリフを、コナン役をやっている高山さんが別作品で発したということで反響のあったシーンです。

 このセリフについての質問もありました。

 これは高山さんのアドリブではなく、原監督の遊び心だったそうです。原監督が高山さんにそのセリフを言ってくれるよう頼んだのです。高山さんが難色を示すことも想定して原監督は説得の言葉を考えていたのですが、高山さんはすんなり承諾してくれたのでした(笑)

 

原恵一監督のフォトタイム!

 

 

・今回のイベントで購入したもの、入場時にもらえたもの。

 

 

 この日の原恵一監督イベントの最後は、『かがみの孤城』公式パンフレット購入者への原恵一監督サイン会でした。

・私は裏表紙にサインを入れていただきました。

 サインを書いていただいているとき私は「原作者の辻村深月さんから送られた言葉で特に印象的だったものはありますか?」と質問。

 辻村さんは原監督にこんな意味のことをおっしゃったそうです。

「私の小説を原作とした二次的作品(映画・アニメ・ドラマなど)に私の小説が敗北したいんです」

 さすがは辻村さん!なんと含蓄のある言葉でしょう。

 これは二次的作品の制作者への最大級のエールですね。送られた側は心が燃えるでしょうし、よいプレッシャーにもなりそうです。

 

 映画『かがみの孤城』が辻村さんの原作小説に勝ったかどうか、私にはどうこう言えませんが、辻村原作と原演出がしあわせな結婚を果たしたことで結晶した傑作だと思っています。

 

 

 イベントの会場で原監督作品のポスターがずらりと飾られていました。

 

 これらポスター群のなかに藤子・F・不二雄先生原作の作品がいくつも見られるように、原監督は演出家として数々の藤子F作品の制作に携わってきました。

 そして辻村深月さんも、以前より藤子F先生のファンを公言しており、映画ドラえもんのび太の月面探査記』では脚本を手掛けています。

 お二人とも、藤子F遺伝子の正統な継承者であり藤子魂をお持ちの一流クリエーターなのです。

 いち藤子ファンとしましては、そうしたお二人が「原作者×監督」として手を結んだ映画『かがみの孤城』に藤子ゴコロをくすぐられずにはいられません。じつに気持ちよく、そのココロがくすぐられました。

 

 

 毎年名古屋で原恵一監督イベントを開催してくださる原恵一映画祭の皆様と会場のシネマスコーレさんに深く感謝します。