アニメ『ドラえもん』感想:「がんばれ!おばけハウス」「おかし牧場

 先週と今週のアニメ『ドラえもん』の感想をメモしておきます。



 8月18日(金)
●「がんばれ!おばけハウス」
 最後まで観たとき「自信を失ったおばけはただちにのび太のところへ行け!」という教訓を得ました(笑)
 この話は、てんとう虫コミックススペシャル『ドラえもんカラー作品集』5巻に収録された「弱いおばけ」がベースになっていますが、それを大幅に膨らませアレンジしています。「弱いおばけ」では3人のおばけが登場していました。のっぺらぼう、骸骨のおばけ、お岩さんの幽霊の3人です。昔の井戸の跡にひっそりと暮らす本物のおばけたちです。その3人が、今回のアニメでは“おばけハウス”というひみつ道具の中にいるおばけ、という設定に変更されました。未来の科学技術が生んだ人工的なおばけになったわけですね。
 3人のおばけが怖がらせようとする相手も、スネ夫から神成さんに変更。神成さんを怖がらせるなんて至難のワザです。あの頑固で強い性格では…。『オバケのQ太郎』の世界とリンクさせるなら、神成さんはドロンパと長く暮らしてとっくにおばけ慣れしてますしね(笑)
 神成さんは、おばけを怖がるどころか、おばけに芸をさせたりウサギ跳びをさせたりして、落語の『お化け使い』を彷彿とさせる状況を生みます。
『お化け使い』でご隠居さんにこき使われるおばけは、一つ目小僧、大入道、のっぺらぼうの女です。それらのおばけが一晩ずつ順にご隠居さんの屋敷に現れます。4日目の晩には狸が登場し、それまでの3人のおばけは狸が化けていたものだと打ち明けて、ご隠居さんのおばけ使いの荒さにギブアップ宣言するのでした。


●「ロビンソンクルーソーセット」(原作:てんコミ39巻)
 のび太くんは便利なひみつ道具を使ってもろくな目にあわない!と断言したドラえもん。その言葉がプラスの暗示効果を生んだのか、のび太がしずかちゃんと過ごす無人島生活はあれもこれもうまくいって大成功となります。そのご褒美が、しずかちゃんとのラブラブシーン(笑)なんだか、このシーンにぜんぶ持っていかれた気分です♪
 そして、のび太が今回は失敗しなかった!という“めでたしめでたし”の空気から、結局は失敗が待っている…というお約束のラストへの落とし方もよかった。原作は最後のコマで一気に話を落としていて、それはマンガだからこその表現という側面があるので、今回のように少し行間を埋めるとアニメとして滑らかに観られます。



 8月25日(金)
●「おかし牧場」(原作:てんコミ24巻)
 家畜化した板チョコやキャンディーやどら焼きなどのお菓子のちょこまかとした動きがとても魅力的でした。お菓子たちがかもし出す小動物っぽさのキュートなこと! 番犬役の大きなガムが土管から出てくるときの不気味なクリーチャー感もよい演出でした。
 板チョコやキャンディーといった身近なお菓子が動物のように動いて鳴いてエサを食べる光景は、まさに夢の空想世界の具現化!といった趣があります。と同時に、バカバカしくてシュールな可笑しみもあふれています。夢の空想世界とナンセンスギャグの絶妙な共鳴現象が生じていて、なんと豊饒なユカイをもたらしてくれることか!と感嘆したくなります。
 このお話は、のび太の「たべてもなくならない…、そんなチョコレートがないかなあ」という身勝手な願望が発端になります。その願望から、ロアルド・ダールの児童小説『チョコレート工場の秘密』を思い出します。この小説に“たべてもなくならないお菓子”が出てくるんです♪ その名も、永久ぺろぺろキャンディー!


●「森は生きている」(原作:てんコミ26巻)
 私が10代の頃から非常に愛着をおぼえている話です。愛着だけじゃなく、切なる思いを抱かされていた一編です。厭世的になったのび太が、自分の性格と親和性が高くてひたすら優しい自然の世界にのめり込んでいく現実逃避行動と、そこからの現実回帰。「タンポポ空を行く」などと通じるテーマですね。
 今回のアニメでは、裏山の風景の美しさにまず魅了されました。こんなに美しくて優しくて手放しで自分の存在を歓迎してくれる世界なら、のび太じゃなくともどっぷりとのめり込んでしまって、帰りたくなくなりそうです。そういう依存性があるんですよね。
 あと、友達の誘いを断ってぼっち行動に走るのび太を心配するしずかちゃんの表情描写が絶妙!
 そして、ドラえもんの渾身の説得と、のび太を本気で愛するがゆえに裏山が取った行動に心を打たれました。目に涙が…。